生贄

藤村 「これも村の掟。しかたのないことですじゃ」


吉川 「だからといって生贄だなんて、時代遅れ過ぎます!」


藤村 「時代遅れとは心外ですな。村としても時代に合わせてアップデートをし、ちゃんとアプリでマッチングした方を生贄として差し出しているのです」


吉川 「時代にあってる! あってるけど! テクノロジーじゃなくて良識をアップデートしろよ。なんで生贄なんだよ!」


藤村 「それはもちろん、山の神がそれをお望みになるので」


吉川 「山の神なんて迷信だ! そんなものはいない!」


藤村 「バカなことを言うでない! よそ者が何も知らぬくせに!」


吉川 「真実を言って何が悪いんだ!」


藤村 「悪いに決まってるだろ! せっかく村おこしとして苦労してみんなで考えた山の神を、なんで見ず知らずの観光客に否定されなきゃならんのだ!」


吉川 「え、あ? 村おこしなの?」


藤村 「お前はこの業者に頼んで作ってもらったゆるキャラのヤマン神ちゃんを見てもそんなことが言えるのか!」


吉川 「だって生贄って聞いたものだから」


藤村 「生きてちゃ悪いのか? だったら殺せっていうのか? 殺して山の神に捧げろとでも言うのか? この人でなし!」


吉川 「違くて。悪いことだと思ったから。生贄だなんて」


藤村 「悪いことだよ? 悪くて何が悪い?」


吉川 「悪くて何が悪いって言い方あるの?」


藤村 「観光の催しとして非日常を提供しようと金もないのに村人みんなで知恵を絞って考えたのに。この世のすべてが綺麗じゃないと納得いかない人間なのか? だったらこんな鄙びた村に来るよりもすべきことがあるじゃろうが!」


吉川 「……はい。そうですね。すみませんでした」


藤村 「すみませんでしたじゃすまんのだよ。どうせTwitterで生贄を大げさに書いて炎上させて正義を気取りたかっただけじゃろ」


吉川 「そんなことないです」


藤村 「本当にそんなことないかTwitterのID教えてみろ」


吉川 「いや、あの……。それだけは」


藤村 「それだけはって言うのは後ろ暗いからじゃろ! 見せてみぃ!」


吉川 「これですけど」


藤村 「ほら! ほらほら! 炎上系のインフルエンサーばっかりフォローしておる! 滝沢ガレソにいいねまでつけてる!」


吉川 「違います、たまたまで」


藤村 「あとこのリスト! グラビア系とAV女優ばっかりのリスト! リストのタイトルが『その他2』! カモフラージュしてるではないか!」


吉川 「やめてください。勘弁して下さい」


藤村 「しかも『その他2』のリストにはフワちゃんまで入っておる! そういう目で見るなよ!」


吉川 「もういいじゃないですか。大きな声出さないでください」


藤村 「どうするんじゃ? お前さんが邪魔をするから、せっかく準備してた生贄の儀式が台無しじゃ」


吉川 「本当に申し訳なく」


藤村 「申し訳ないじゃすまないんじゃ! 生贄の儀式を最前席で見るための予約の客だって入ってるのに! 儂ら村人全員飢えろと言うのか? 都会から遊び半分で来た若者風情が」


吉川 「どうしたらいいですか?」


藤村 「自分で始末もできんのに邪魔をしたのか! 無責任にもほどがあるじゃろ!」


吉川 「うぅ、すみません」


藤村 「しかたない。じゃあ、あれだ。生贄になってもらうか」


吉川 「あ、それでいいならやります」


藤村 「本当じゃな。一応言っておくけどこれは双方の合意ということだから。じゃあ書類に署名して」


吉川 「ちゃんとしてるんですね。本当に観光用なんだ」


藤村 「いや、観光用のは別だから。こっちは本当の方」


吉川 「なに、本当の方って」


藤村 「いや、深く聞くでない。もうサインしたんだから」


吉川 「だからなに、本当って。本当とか嘘とかないでしょ」


藤村 「……」


吉川 「いや、なにか言ってよ! ちょっと! ちょっとぉ……」



暗転

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