ヒーロー

マン 「悪に染まったこの世の中を、綺麗にしようエイクロマティックマン!」


吉川 「ありがとう、正義のヒーロー!」


マン 「なぁに、人が助けを求める時、いつだってエイクロマティックマンは現れる」


吉川 「すごいなぁ。憧れる。どうしたらそんなヒーローになれるんですか?」


マン 「少年、ヒーローになりたいのかい?」


吉川 「はい!」


マン 「ならばお父さんお母さんの言う事をよく聞き、好き嫌いせずになんでも食べて、学校の勉強も頑張るんだ」


吉川 「そうすればヒーローになれるんですね!」


マン 「どうやら本気のようだな。それならば何か資格を取得しておくといい。ヒーローになったあと潰しが効かないからね」


吉川 「急にザラついたリアルさがでてきたな」


マン 「ヒーロー活動は匿名なので履歴書だと空白期間になってしまうんだ。そうなるともう再就職の幅が狭くて狭くて」


吉川 「そっか。ヒーローは履歴書に書けないんだ。そこまで考えたことなかった」


マン 「収入の手段も考えなければならない。You Tubeなどで収益が取れるならそれが一番いい」


吉川 「苦労が伺い知れるな。ちなみにエイクロマティックマンはYou Tubeやってるの?」


マン 「やってはいるけど、もうやめる。登録者数が2000人から伸び悩んでいてね」


吉川 「悩みに質感がありすぎる。まさかヒーローがそんなことをしていたとは」


マン 「ただこれはやり方があって、ある程度までやっても伸びなかったらもうそのキャラは諦めて、違う名前のヒーローとして始めればいい。いつかバズるまでガチャ引き続ける感じかな」


吉川 「そんな理由でヒーローがいなくなるの? 応援してた人たちに申し訳なくない?」


マン 「これはVtuberとかもやってることだから」


吉川 「違う界隈の人たちを風評被害に巻き込まないでよ!」


マン 「言ってみればヒーローなんてキャラ大喜利だからね。知名度のあるヒーローもないヒーローもやってることは一緒だから。ただノリだけで生きてる大衆が食いつくかどうかだけ」


吉川 「言い方もひどい。ヒーローとしての正しさの底が見えてる」


マン 「でもほら、一発当てればデカいから。それ追い求めて30年くらいやってる人もいるし」


吉川 「それを追い求めてるの? 正義のためにやってるんじゃないの?」


マン 「ハンッ、正義?」


吉川 「鼻で笑っちゃった。大人のビターが効きすぎてるのよ」


マン 「正義ってのはあくまで生活の基盤があってのことだから。やってることは暴力なんだから生活の安定しないやつがやったら悪になるんだよ」


吉川 「悪ってそういう解釈でいいの? ままならないヒーローが悪ってこと?」


マン 「仕組みはもうちょっと複雑だけど。ただ助成金とかちゃんと出ればみんなヒーローになれるのに」


吉川 「助成金目当てのヒーローとか全然憧れない。悲しいことを言わないでよ」


マン 「ただやっぱりオススメはしないかな。ヒーローって人気が出ようと出まいと、なったらなったで後々大変だから」


吉川 「後々! 正義とか平和とかを考えるんじゃなくて? 後々を考えてるの?」


マン 「再就職が大変って言ったけどさ。ちゃんと気持ち切り替えて働ける人はいいんだよ。ほとんどの人はもうそういう実直なことできなくなってるから」


吉川 「ギャンブル中毒のダメ人間とそう変わりない指摘を」


マン 「それでなるのがタレントか政治家。その二つはバカな大衆が喜べばどんなクズでもなれるから」


吉川 「もう悪口だよそれは! すべてのタレントと政治家に謝りなよ!」


マン 「まぁ、タレントの中にはちゃんとした人もいるから全員とは言わないけどね」


吉川 「政治家は!? 切り捨てるなよ! ちゃんとした政治家もいるよ!」


マン 「ただ君がヒーローになるというなら大歓迎だ」


吉川 「どうして? ライバルになるとか思わないの?」


マン 「熱い気持ちは止められるもんじゃない。そんなことよりも、人気が出たらコラボしてもらっていいか?」


吉川 「煩悩しかねぇ!」



暗転

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