機械音痴

吉川 「……あれ?」


藤村 「ひょっとして、道に迷った?」


吉川 「いや、そんなはずはないんだけど。変だな」


藤村 「迷ってるでしょ、完璧に」


吉川 「おかしいな」


藤村 「お前は昔から方向音痴だからな。ちゃんと確かめろよ」


吉川 「スマホの通り行ってるはずなんだけどね」


藤村 「本物の方向音痴はスマホで地図を見ても迷うっていうからな。しょうがない、俺のスマホで確認するか」


吉川 「頼む」


藤村 「……じゃあ、スマホがこっちに倒れたらこの道を行く。こっちに倒れたらそっちの道ってことで」


吉川 「ちょっと待って。どういう意味?」


藤村 「回して決めたほうがいいか? ルーレット的に。最後に止まった方向に進むという」


吉川 「いや、スマホ。そんな占い的に使わなくていいじゃない」


藤村 「他にどうやって使うんだよ?」


吉川 「他にどうにかする使い方以外ないでしょ」


藤村 「知らない。スマホってこういうのじゃないの? なんか導いてくれる不思議な板」


吉川 「全然違うよ? そんな宣託の巫女みたいなものだと思ってたの? すごい機械音痴だな」


藤村 「仕返しか? さっき俺が方向音痴と言ったから?」


吉川 「だってまずスイッチ入れてない」


藤村 「そんなのは人それぞれだろ!」


吉川 「いいや。人それぞれじゃないよ? スイッチ入れるのはどの人も。全人類必須よ? スイッチ入れないでスマホを扱おうとしてるのお前だけだから」


藤村 「言い切ったな? じゃあ逆に聞くけど、お前はかまぼこの板のスイッチを入れるのか?」


吉川 「なんでかまぼこの板とスマホを同列で語れるの? 同じ用途の板だと思ってる?」


藤村 「わかってるよ! スマホの方がちょっと重いだろ」


吉川 「そこだけ? 差異は。そもそもそれならんでスマホ持ち歩いてるの?」


藤村 「かまぼこの板だと、なんか臭くなるだろ?」


吉川 「しっかり洗ってよ。いや、別にかまぼこの板を持ち歩く意味もわからないけど。そもそもスマホってなんだかわかってるの?」


藤村 「逆に聞くけど、お前は命ってなんだかわかってるの? 生きてるものと死んでるもの、その違いは何だ?」


吉川 「鮮やかに問題をすり替えたなぁ。ルパンだってそこまで見事にすり替わらないぜ? 全然違うことだから」


藤村 「お前は結局、方向音痴と言った俺を見下したいだけなんだろ? 悔しさ紛れで。そのためにありもしないスマホの奇跡みたいなのをでっち上げてるんだろ?」


吉川 「スマホの奇跡ってなに? 奇跡の力で我々はネットをやったりしてるわけじゃないよ?」


藤村 「そんなもんを後生大事に抱えて、事あるごとに眺めてほくそ笑んで。気持ち悪いんだよ!」


吉川 「いや、スマホ自体を見て喜んでるわけじゃないから。その内容だから」


藤村 「かまぼこの板だって紀文とか書いてあるし!」


吉川 「紀文の文字、掘り下げ甲斐がなくない? どんなメッセージを受け取ってるの、そこから?」


藤村 「スマホだって似たようなもんだろ! アップルとか書いてあるんだろ?」


吉川 「メーカーロゴを楽しむ板じゃないからね。あの、難しいかもしれないけど内容があるんだよ。その板のように見えるけど」


藤村 「だいたいわかってるよ!」


吉川 「今までの会話で大体わかってるように思えなかったけど。一応理解はしてくれてるんだ? じゃあ、それで道、わかるようにできない?」


藤村 「俺なりにやってみるけど、文句言うなよ?」


吉川 「まぁ、任せるよ」


藤村 「ご先祖様、正しき道を導いでください!」


吉川 「な、なに? 何を始めたの、一体? その板は何?」


藤村 「おじいちゃんの位牌だよ」


吉川 「否定しにくいもの持ち出さないでよ」



暗転

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