二刀流

吉川 「キミか新人は。最初は慣れないと思うけど気づいたことがあったらなんでも言ってくれていいから」


藤村 「ありがとうございます。自分は二刀流でいきたいと思ってます」


吉川 「ほぉ、威勢がいいな最近の新入社員は。二刀流ね。いいんじゃないか? 若い頃はなんでも試してみることだ」


藤村 「とりあえずは新入社員と社長の二刀流でいこうと思います」


吉川 「いこうと思いますってなんだよ? そんな二刀流はないだろ」


藤村 「最初はみんな否定してかかるというのはわかってます。でも結果を出せば黙りますから」


吉川 「いやいや、結果を出す前に。なれないよ。社長には。株主とか通さないといけないんだから。ちょっとした席替えくらいに思ってる?」


藤村 「無理だと言うんですか? お前には二刀流は無理だと?」


吉川 「二刀流じゃなくてさ。意気込みでなれるんならなりたいやつ他にもいるよ。俺は嫌だけど」


藤村 「わかりました。それならまず社長のみで結果を出して黙らせてみせます」


吉川 「その一刀が無理なんだって。そっちの刀は聖剣エクスカリバーなんだよ。真の勇者にしか抜けないやつなんだから。新入社員の方で結果を出して黙らせろよ」


藤村 「新入社員の方はあんまり自信がありません」


吉川 「なんで? まぁ、誰でも最初は自信がないかもしれないけど。だったら社長はどうしてあるんだよ」


藤村 「お言葉ですが私は桃鉄99年を何度も制覇してるんですよ?」


吉川 「お前のお言葉なんの説得力もないな。動かされないよ、その成果じゃ」


藤村 「わかりました。社長がダメだというのなら取締役の偉そうなやつにします」


吉川 「なれないんだって! 株主の承認とかいるんだから。桃鉄の実績を引っ提げて株主の前に出られるか?」


藤村 「どうしても二刀流を否定する気ですか?」


吉川 「二刀流は否定してないよ! いいじゃない、営業と事務とか、両方頑張ることだってできる」


藤村 「そういうの苦手なんで」


吉川 「二刀流豪語する割には苦手要素多いな。苦手でも得意になるように努力すればいいだろ」


藤村 「いえ、向いてる特性だけを伸ばしたいんで。苦手なことをやってる時間なんて私にはないんです」


吉川 「立派なこと言ってる風だけど、仕事に対する姿勢じゃないな、それは」


藤村 「わかりました。では窓際社員と有給休暇の二刀流でいきます」


吉川 「何も生産性がないだろ。なんだよ有給休暇って。仕事ですらない」


藤村 「一応二刀流なので給料は二倍ってことになりますかね」


吉川 「ならねーよ。二刀流って言ってるのお前の心持ちだけだもん。会社はお前を二刀流だと思って雇ってないんだよ」


藤村 「そういうこというなら私だって半刀くらいの気持ちでやらせてもらいますけど?」


吉川 「なんでだよ! せめて一刀分は働けよ。他の社員はみんなそうなんだよ」


藤村 「その人達は別に二刀流じゃないでしょうが!」


吉川 「お前も違うよ。そもそも二刀流って自称するもんじゃないだろ。周りから評価されて敬意を持ってそう呼ばれるんだよ。なりたいからなるってものじゃない」


藤村 「夢は願わなければかなわないんですよ!」


吉川 「こっそり願ってろよ。お前の夢の余波で周りが苦労するのはおかしいだろ」


藤村 「はぁ、どうしても理解されないか。わかるなぁ、大谷選手の気持ち」


吉川 「全然わかってないよ、多分。誰の気持ちもわかってないよ」


藤村 「いいですよ。こうなったら地道にやり続けて認めてもらうしかないですから」


吉川 「そうだよ。それでいいんだよ。まずは目の前の仕事から一つずつこなしていけばいいんだ。そうすれば誰もお前を否定しないから」


藤村 「つきましては今晩なんですが、こちらの店で一人1万2千円のコースです。私は着替えてから合流するのでそれまで雑談でもしててください」


吉川 「なにが?」


藤村 「新人歓迎会です。一応主役と幹事の二刀流でやらせてもらおうと思って」


吉川 「どっちも切れ味鈍いなぁ」



暗転

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