RPG

戦士 「見ろ、この足跡! 間違いない、この先に伝説のモンスターがいるはずだ!」


吉川 「そうだな。レーダーもそれを示してる」


戦士 「……あのさ。前から思ってたんだけど、レーダーやめね?」


吉川 「どうして? こんなに便利なのに」


戦士 「伝説のモンスターを狩りに来てる冒険者がさ、レーダー使うの良くないと思うんだよ。なんというか世界観的に」


吉川 「世界観?」


戦士 「もしこれから俺たちが伝説のモンスターを倒したらさ、武勇伝とか語られるわけじゃない? レーダーを使ってもいいけど、もっと伝説的な名称にしてくれないかな。鷹の目を映す水晶とか」


吉川 「説明書にはレーダーって書いてあるし。型番も」


戦士 「いや、レーダーがありふれてる世の中なら俺だってこんなこと言わないよ? でも持ってるのお前だけじゃん。なにそれ。どうしたの?」


吉川 「なんか最初から持ってた」


戦士 「なんか最初から持ってたレーダーって言われても世間知らずの一般人には伝わらないのよ。伝説を追う以上、最終的なアウトプットまで想定してよ」


吉川 「わかった。熱探知によればどうもあの穴の中にいるようだ」


戦士 「なんかお前が当たり前のように言ってるのがムカつくんだよ。まず熱探知とは何か、みたいな説明をしてから行動を起こすべきだろ? この世界にお馴染みじゃない装置なんだから」


吉川 「熱を探知する装置だが」


戦士 「完全にバカにしていっただろ? この原始人に説明しても無駄か、って顔してたな? もっとこうさ、剣と盾で頑張って討伐しようとしてる冒険者を尊重しろよ。灯りもこっちは松明なんだから」


吉川 「照明弾を撃つか?」


戦士 「だから名前! なんかあるだろ! 太陽神の導きの珠とか! それっぽいの。お前が全然知らないすごい物を持ってるのはわかるけど、歩調を合わせろよ」


吉川 「わかった。うわぁ! 砂利道で足を滑らせて転びそうだ! 靴のソールが革だから!」


戦士 「完膚なきまでにバカにしてるだろ。それが俺たちの一般的な行動だと思ってるの? 砂利で足を滑らせがちだと。なんか革の靴を履いてヨボヨボ歩いてる感じで? そんなやついないんだよ! むしろ慣れてるんだよ俺たちはそれで! わざわざフォーカス当てるようなことじゃないんだよ!」


吉川 「危ない! 伝説のモンスターが穴から出てきた! ビーム発射!」


戦士 「ふざけんなよ! なんだよそれ! ピューってやつ」


吉川 「ビーム」


戦士 「二度と撃つなよ! モンスターの後ろの崖が吹っ飛んだじゃないか。お前、俺が持ってるこれなんだかわかってるんだろ!?」


吉川 「剣じゃない?」


戦士 「ただの剣じゃないんだよ! 名工が打ったこの世に二つと無いすべてを切り裂く剣だ。具体的にはそのくらいの太さの木なら一刀で倒せる」


吉川 「うん」


戦士 「なのにお前が崖自体を吹っ飛ばすビーム? そんなのやったら台無しだろ? 俺はこの剣で人々から称賛を浴びてきたんだよ。木を切り倒すデモンストレーションで。女だってメロメロだよ。なのにお前のその目は『はぁん、木ですか』みたいな感じじゃないか」


吉川 「剣にしては割とやると思ってるよ」


戦士 「その言い方が下に見てるだろ! 剣そのものをさ! みんなこれでやってるんだよ。この鋭い金属板がいかに切れるかとか扱いやすいかで人生を賭けたりしてるんだよ! ビームとか出すんじゃないよ! 全員傷つくんだよ」


吉川 「でもこれは人間に対しては麻痺程度の効果しかない安全なもので」


戦士 「心が! 俺たちはもう心でやってるんだから! 心優先で。そういう異常な暴力を許さず心のこもった剣での一撃に賭けてるの!」


吉川 「危ないっ!」


戦士 「吉川! 俺をかばって……」


吉川 「ここまでだ。もう動けない」


戦士 「お前にもあるじゃないか、心が。今そのはち切れそうな思いを抱えたそれが心だ!」


吉川 「自爆装置を起動する」


戦士 「やっぱそれは違う!」



暗転

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