寿司

吉川 「こんばんは。一名で」


藤村 「はい、らしゃいませー。一名様ご案内アルヨ」


吉川 「あれ? ここお寿司屋さんですよね?」


藤村 「ハイ。もちろん、腕によりをふるったお寿司をご提供するアルヨ」


吉川 「どの方が握るんですか?」


藤村 「ワタチが握らせてもらうアルヨ」


吉川 「どちらご出身の方ですか?」


藤村 「東京、江戸前のお寿司アルヨー」


吉川 「アルヨーってなんですか? あとなんで辮髪なんですか?」


藤村 「髪の毛落ちるよくないアル。たから髪の毛縛ってるアルネー」


吉川 「アルヨって言わないでしょ。普通の日本人は」


藤村 「ソナコトないアルネ。ワタチの修行したお店じゃみんなこの喋り方アルヨ」


吉川 「中華のお店じゃないの? そこは」


藤村 「チュコクジンもいたアルヨ。でもワタチは江戸前の寿司アルヨ」


吉川 「なんか怖いな。とりあえずお任せでなにか握ってもらえる?」


藤村 「わかったアル。はいこれ。麻婆軍艦あるね」


吉川 「やっぱり。思った通りの創作寿司が出てきた。もうこの流れは読めてたよ」


藤村 「続いてカレー軍艦アルネ」


吉川 「それは読めてなかったな。読めてないけど嬉しくない方向の裏切り。なんで辛いのの次に辛いの来るの」


藤村 「続いてチリコンカンの軍艦」


吉川 「もう軍艦しか出てこない。辛いの。辛い軍艦のみ」


藤村 「仔牛のディアブロソースの軍艦」


吉川 「また辛いの。軍艦。もう大日本海軍みたいな艦隊が攻めてきてる」


藤村 「口直しにちょっとハバネロを齧ってリフレッシュするといいアルヨ」


吉川 「直のハバネロ! 徹底的に麻痺させる方向性できてるな」


藤村 「続いては何の軍艦を握るアルカ?」


吉川 「軍艦なのは既定なんだ。なんなの? ノリの業者と癒着してるの?」


藤村 「お子様に大人気の明太子の軍艦もアルヨー」


吉川 「また辛いの。ここまで徹底的に辛いので攻めて来たのに次弾が明太子なのややパンチが弱いだろ。もうあんまり辛さ感じなくなっちゃう」


藤村 「あとはピリ辛の高菜の軍艦」


吉川 「どんどんアタックが弱くなってきてる。まだ序盤の麻婆軍艦の方がインパクトあったよ。組み立てが下手すぎるだろ」


藤村 「酢飯アルヨ」


吉川 「酢飯! 諦めるなよ! もう寿司の体すら放棄してるじゃん。辛いシリーズのネタが切れたからって自暴自棄になるなよ」


藤村 「ナイヨー」


吉川 「ナイヨもあるの? 語尾がナイヨの中国人見るのレアだな」


藤村 「日本人です」


吉川 「もうキャラも放棄した。極端なことする割には打たれ弱いやつだな。一番扱い難いイキった陰キャじゃん」


藤村 「サバです」


吉川 「普通のサバ! できるんじゃん。普通の寿司屋。なんであんな極端なことしたの? どういう心境だったの?」


藤村 「コハダです」


吉川 「会話のキャッチボールもないじゃん。機械的に手を動かす寿司ロボットに成り下がったよ」


藤村 「赤貝です」


吉川 「なんか普通のターンになったらいちいちツッコんでる俺の方が異常者みたいな感じなっちゃったな。なんでこんな両方ともションボリした空気感になっちゃったんだ。ただ寿司を食べに来ただけなのに」


藤村 「ワサビ巻です」


吉川 「あっ! 新鮮なワサビを巻いたやつ。将太の寿司で見たことあるわ。辛い。さっきの辛さとは方向性が違うけど辛いシリーズの兆しを感じる!」


藤村 「キムチとアボカドとエビを和えたものを巻きました」


吉川 「キムチ! 来たよ来たよ! 帰ってきた! あの辛いシリーズが帰ってきたんだ!」


客  「一人ですけどいいですか?」


藤村 「いらっしゃいませ。お待たせ、ナッシュビルホットチキンの軍艦アルヨー」


吉川 「おかえり! 軍艦に乗って帰ってきた! 辛い黒船のお通りだ! 待ってました!」


客  「なんだこの寿司屋……」



暗転

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