マウント

藤村 「おいおいおい。調子乗ってんじゃねえぞ? お前この辺の人間か?」


吉川 「あ、はい。地元です」


藤村 「地元? じゃ、西高?」


吉川 「そうです」


藤村 「え? だったら笹咲さん知ってる?」


吉川 「笹咲ってビー部の? 俺の一個下だけど」


藤村 「あ……。笹咲さんの先輩ですか? あ、どうも」


吉川 「なんだよ。笹咲の後輩なの? じゃ、俺の後輩か。なにやってんだよ。こんなところでよ」


藤村 「いえ、なんか最近この辺りも妙なやつが増えてきたんで」


吉川 「あぁ。ま、あんまりやりすぎるなよ? なんだっけ? 名前」


藤村 「藤村です!」


吉川 「藤村。おう。藤村? この辺で藤村っていうと、藤村社長と関係あるの?」


藤村 「あ、親父です」


吉川 「あ、そうでしたか。藤村社長のご子息の。それはどうも。私、仕事の方で色々と便宜を図っていただいてました。吉川と申します、よろしくお伝えください」


藤村 「なに? 親父の? あぁ、わかった。何の吉川さん? どこの会社?」


吉川 「いえ、本当に小さい会社で。『星降る空にヒーローは笑う』ってアニメを作ってる制作会社なんですが」


藤村 「え? 星笑ってアニメの? あれ作ってるの?」


吉川 「あ、一応私、演出で」


藤村 「ふわああああ! 神じゃん! あなたがあの! うわぁ! お会いできて光栄ですぅ!」


吉川 「あ、見たことあります? 好きなの?」


藤村 「もう、大好きで! 俺の配信でも星笑の話すると再生数すごい伸びるんで!」


吉川 「はいはい。なんかあるらしいね。もともと人気が出たきっかけもVチューバーが取り上げてくれて話題になったんだよ。なんだっけな、吸血鬼がモチーフの」


藤村 「あ、それ俺です! 血吸ヶ原エリザベート。俺のチャンネルです」


吉川 「え? あなたがエリザベート嬢!? それはそれは、本当にその節は助かりました」


藤村 「もうないすか?」


吉川 「え?」


藤村 「もうないですか? マウント取り返す要素。じゃ、俺が上ってことでいいですよね?」


吉川 「え、上とか下とか、もうよくないですか?」


藤村 「いやいや、逆転されたら困るんで。結果的には俺の方が上ってことでいいですよね?」


吉川 「いや、でも私の方が年上ですし」


藤村 「年のやつは先輩後輩のターンで終了したじゃないですか。それはもう過去のマウントなんで。最終的な偉さランキングで俺が上ってことで」


吉川 「過去のマウントなんてあるの? その、お互いに尊敬し合うみたいな関係でいいんじゃないかな?」


藤村 「そもそもあんたがマウントとってきたんだろ? 先輩風で。こうなったらもう引けないよ」


吉川 「そういうつもりはなかったんだけど」


藤村 「そういうつもりはあっただろ。俺が後輩ってなった時にちょっとしてやった感出してたじゃねーか」


吉川 「あぁ、確かに出ちゃってたかもしれないけど。ほら、共通の知人や趣味とか合うわけだし」


藤村 「だからこそどっちが上かきっちりしようや」


吉川 「きっちりしたがりなのか。ごめん、もう急いでるんで」


藤村 「はい、全然ダメ。俺の方が忙しいから! 忙しいくらいのことで逆転できると考えるのは甘いよ」


吉川 「そうじゃなくて。あーもう。負けでいいよ。私が下でいいから」


藤村 「うわっ。潔さでマウントとってきた? それは卑怯だよ。もっと客観的な評価でしろよ。年収はいくらなの?」


吉川 「いや、言わないですよ。こんなところで」


藤村 「家は? 家は持ち家?」


吉川 「怖いなキミ。そんなの知らなくていいでしょ」


藤村 「はいはい。完全勝利ですわ。吉川、おつかれ。まぁ、お前もがんばれよ」


吉川 「はぁ、もうそれでいいです」


藤村 「あれ? ちょっと待って。お前身長何センチ?」


吉川 「179ですけど」


藤村 「あ……。なんかすみませんでした」


吉川 「シンプルなのでいけたな!」



暗転

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