リフォーム

藤村 「では、お邪魔いたします」


吉川 「どうぞ~」


藤村 「失礼して手袋をさせていただきますね」


吉川 「別に素手で構いませんよ」


藤村 「いえいえ、私が少し潔癖なものですから。それにしても素晴らしいお宅ですね」


吉川 「いや、古いだけです。結構あちこちガタが来ちゃって。今回を機に直せるところは直そうかなぁと思いまして」


藤村 「そうですか。そうですか。こちらの柱なんて、うわっ! 汚えっ! 風合いも出てますし」


吉川 「あはは。古いんでね、ちょっと汚れて見えるところもありますが掃除はしてるんで」


藤村 「ええ、もちろん。汚い家にしてはかなり掃除されてますね」


吉川 「んん? 汚いって」


藤村 「いえいえ。違います、私どもの言葉でして」


吉川 「あぁ、そういう専門用語が?」


藤村 「はい。不潔で気持ち悪い状態をそう言うんです」


吉川 「それは別に専門用語じゃないな。一般的な汚いっていう使い方だな」


藤村 「そんなことないですよ。ここなんて、うわっ、汚えっ。年代物ですね」


吉川 「あの、毎回リアクションで汚さに驚いてるの失礼じゃない?」


藤村 「申し訳ございません。お不快な気持ちにさせてしまいましたか?」


吉川 「そうだね、あんまり言わないで欲しいな」


藤村 「しかし、これは私の受け取ってる不快な気持ちとイーブンなんで我慢していただきたいです」


吉川 「なにそれ! お前が不快なのは知らないよ。別にそんなに汚くないだろ」


藤村 「いえいえ、もう菌が。とにかく菌がすごいんで」


吉川 「そんなことないだろ。空気も入れ替えてるし。特にコロナとかあったから割と気を使ってるよ」


藤村 「違います。言い難いんですが吉川菌が」


吉川 「なんだよ、吉川菌って、それ小学生がいじめるやつだろ」


藤村 「本当にエンガチョなんで」


吉川 「お前なにしに来たんだよ? リフォームの見積じゃないの?」


藤村 「はい、その通りです。ただちょっと潔癖なもので」


吉川 「かなりだよ! むいてないんじゃない? この仕事」


藤村 「いえ、仕事の方はバッチリとやらせていただきます。こちら全体的に不潔さを維持したままリフォームという考えでよろしいですか?」


吉川 「不潔さを維持ってなんだよ。そんなもの維持したくないし不潔じゃないよ」


藤村 「それなんですが、外側からは見えませんが結構精神的な部分で穢らわしいなーってところが多そうなので」


吉川 「お前の精神は知らないよ! うちの家族はその状態で問題なく暮らしてるんだよ」


藤村 「あぁ、不潔の発生源がですか」


吉川 「失礼すぎるだろ。そんなこと言ったら全部の人間が不潔の発生源だろ!」


藤村 「あ、違います。精神的な部分で」


吉川 「精神的なのは知らねーって! お前の心積もり一つだろ。別に俺の周りは誰も何も言ってこないよ」


藤村 「あぁ、やっぱり……」


吉川 「違うよ! 穢らわしいから言ってこないわけじゃないから。別にそんなことないから!」


藤村 「まず一つの案として、こちらのトイレの壁ですね。これを全部取り除いて、大きな一つのトイレというイメージにするというのはどうでしょう?」


吉川 「いいわけないだろ。0.1%も心動かされない提案だな。全部がトイレなんで不潔でもOKってなるか?」


藤村 「今もたいして変わらないと思いますが?」


吉川 「変わるよ! そんな目で見てるの? そこまで不潔じゃないだろ。そもそもうちのトイレだってちゃんと掃除して汚くはないようにしてるんだよ!」


藤村 「なるほど。きちんと焼け石に水は掛けてるわけですね?」


吉川 「無駄な足掻きみたいに言うなよ! 綺麗にして悪いことなんてないだろ!」


藤村 「あとこちらのお部屋、すみません。ドアノブ触りたくないんで開けてもらっていいですか?」


吉川 「徹頭徹尾無礼だな。ここは夫婦の寝室ですよ。別に変えなくていいですけど」


藤村 「あぁ、ここで色々フケツなことをするわけですか?」


吉川 「ニヤニヤすんなよ! お前一旦病院行って来い!」



暗転

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