大きく分ける

吉川 「だからと言って殴ったらダメだろ!」


藤村 「殴ってません」


吉川 「殴ったんだろ? 先に手を出したのはお前だって聞いてるぞ?」


藤村 「そうかもしれないけど、殴ってません」


吉川 「同じことなんだよ。蹴ったのか?」


藤村 「蹴ってません」


吉川 「手を出したのはお前だろ?」


藤村 「手、ではないです」


吉川 「なに? 何をしたんだよ? 暴力だろ?」


藤村 「大きく分ければ暴力です」


吉川 「じゃ、ダメだろ。何したんだ?」


藤村 「鉄山靠です」


吉川 「てつ? なに?」


藤村 「鉄山靠です」


吉川 「先生よく知らないんだが、鉄山靠ってのは武器か?」


藤村 「いえ。八極拳の技です」


吉川 「そうか。なら、ダメだろ。先に手を出した方が悪いんだよ」


藤村 「背中ですけど」


吉川 「なに? 背中って?」


藤村 「背中を出しました」


吉川 「やったんだろ? はじめに。その鉄山靠ってのを」


藤村 「はい」


吉川 「ダメだろ」


藤村 「鉄山靠でもですか?」


吉川 「鉄山靠でもダメだろ。よく知らないけど、鉄山靠ならOKっていうものじゃないだろ? そのカンフーの技なんだろ?」


藤村 「ものすごく大きく分ければカンフーの技です」


吉川 「ならダメだよ。なんで鉄山靠をしたんだ?」


藤村 「かなり練れてきたので」


吉川 「なに、練れてって。相手がなんかしたのか?」


藤村 「いえ、八極拳の熟練度が上がってきたので」


吉川 「ダメだろ。熟練度の上がった技を出しちゃ!」


藤村 「もっと覚えたての技を出すべきでした」


吉川 「熟練度が低ければ許されるってことじゃないぞ? どのレベルでも繰り出しちゃダメなんだよ。たとえどんな相手でも」


藤村 「ざっくりと大きく分ければ悪人でした」


吉川 「大きく分けるなよ! さっきから大きく分けがちだな。人ってのはそう簡単に分けられるもんじゃないんだよ。そもそもなんで鉄山靠なんだよ。普通に殴らない理由ってのはあるのか?」


藤村 「鉄山靠は攻撃が当たる瞬間に自分の顔が相手の反対側を向きます。そのおかげで飛沫などが飛んだとしても顔にかかるリスクが少ないので」


吉川 「感染症対策でやったの?」


藤村 「相手がノーマスクだったんで」


吉川 「それはやっぱり、ダメじゃないか? いくら感染症対策だとしても」


藤村 「普通に殴ったほうがいいですか? 感染するリスクを冒して」


吉川 「普通に殴るのもダメだよ。そもそも暴力はダメなんだから」


藤村 「ノーマスク相手ですよ? 大きく分ければバカですが」


吉川 「いや、ダメだよ。なんかノーマスクもOKってことに政府がしちゃったんだから。そこ大きく分けちゃダメ。バカじゃない人もノーマスクしてるから。それでいいんだから」


藤村 「だから自己責任で少しでも感染症対策をするために鉄山靠をしたんですが?」


吉川 「そもそも鉄山靠が感染症対策として優れてるってのはなんなの? 嫌だったかかわり合いにならずに離れればいいだろ?」


藤村 「お言葉ですが、もしご先生の愛する者が傷つけられるとしても同じことを言えますか?」


吉川 「え、そういう状況だったの?」


藤村 「メチャクチャ大きく分ければそういうことになるかもしれません」


吉川 「大きく分けるなよ。ちょっと細かめにわけて状況を説明してよ」


藤村 「細かめと言うなら今回は違いますが」


吉川 「じゃ、ダメだろ。なんでそんな劇的なシチュエーションを例に出したんだよ」


藤村 「でももし、そうしなければ多くの人たちに危険が迫るという状況だったとしたら?」


吉川 「そうだったの?」


藤村 「それなりに大きく分けるとそうと言えないこともないです」


吉川 「お前の大きく分け方、こっちが測れないんだよ。どのくらいの大きさなのか具体的に言ってよ」


藤村 「すごいムカつくやつだったんです」


吉川 「それを大きく分けて多くの人の危機にしたの? 大きすぎない? ムカつくってのは個人の見解なんだから大きく分けて危機にまとめるの無理だよ」


藤村 「ただ、どうしても地球の危機が迫っているという状況だったとしたら」


吉川 「大きく分けたらそうなの? 知らないよ? 地球の危機は迫ってなかったもん。最近、地球の危機が迫っているって情報入ってきてないもの」


藤村 「大きく分けると情弱は知らないと思いますが」


吉川 「俺を情報弱者の側に大きく分けるなよ。なかっただろうが」


藤村 「極限まで大きく分ければ世界の危機でした」


吉川 「極限まで大きく分けたら大体が世界の危機になっちゃうよ。そんな分けられた世界で生きるの辛すぎるだろうが」


藤村 「大きく分けたら辛いです」


吉川 「そこは普通に同意しろよ」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る