脱出

吉川 「おい! 集中しろよ! スマホなんて見てないで考えろ!」


藤村 「もう無理だよ。俺たちだけだよ? 最初の部屋でずーっと詰まってるの。もう制限時間になるから」


吉川 「それはそうだけど、せめて次の部屋くらい行こうぜ? せっかくリアル脱出ゲーム来たんだから」


藤村 「だからスマホで答えないか探してるんだよ」


吉川 「ズルだけどしょうがないか。なんにもわかんないもんな。ここまで何もわからないとは思わなかった。係の人もビックリするだろうな。最初の部屋でこんなになんにもわかってないやつらがいたら」


藤村 「なんか爆弾仕掛けられたんだって」


吉川 「なに? ニュース?」


藤村 「うん。この辺。近いよ。終わったら見に行こうか?」


吉川 「爆弾だろ? 万が一何かあったらどうするんだよ。やめとけよ野次馬は」


藤村 「でもすぐ近くだから。……あれ? このビルってなんだっけ?」


吉川 「スクワデュラ笹崎」


藤村 「一階カフェで二階がイベントスペース?」


吉川 「そうだよ。入った時見ただろ?」


藤村 「ここだ」


吉川 「……まさか?」


藤村 「爆弾。ここ。見て」


吉川 「本当だ。いや、大丈夫だよ。係の人いるから。呼べばすぐ出られるから。すみませーん」


藤村 「ビル内、周辺施設は避難が済んでるって」


吉川 「済んでないだろ。俺たちがいるんだから」


藤村 「済んでないよね? これ、誤報じゃん! 抗議しないと」


吉川 「抗議の前にすることがあるだろ」


藤村 「ネットに晒して炎上させる? ついに俺もそっち側デビューか」


吉川 「違うよ。ちょっとワクワクしてんじゃないよ!」


藤村 「おい、ひょっとして。いや、俺はお前のこと友達としか思ってなかったし。気持ちは嬉しいけど、急にそんなこと言われてもちょっと考える時間欲しいっていうか」


吉川 「なにを!? 気持ち悪いこと言い出すなよ。脱出がまず最優先だろ!」


藤村 「気持ち悪いってなんだよ! 人の気持ちを弄びやがって。どうしてくれるんだよ。もう恥ずかしくてお前の顔が見れない」


吉川 「なんでこの状況でそんな面倒なことを言い出すんだ。爆弾が仕掛けられてるんだぞ?」


藤村 「そうだよ。今ならときめきメモリアルの表現がよく理解できる」


吉川 「そういう意味じゃないよ。嫉妬心の比喩としての爆弾じゃなくて。リアル爆弾。このビルに」


藤村 「俺のハートの痛みだってリアルだよ!」


吉川 「わかった。その話は後できちんと話し合おう。ちゃんとお互いが納得するまで話すから。今は協力して脱出しないと」


藤村 「そうやってうやむやにしようとしてるんだろ。今ここできちんと結論を出して!」


吉川 「面倒くさいな! 状況わかってる? 爆弾が爆発したら俺たちは死ぬんだよ?」


藤村 「うさぎは寂しくても死んじゃうんだよ!?」


吉川 「うさぎ関係ないだろ! うさぎの生死に関しては自分の安全を確保できてる状況で悩んでくれよ」


藤村 「もうダメだ。心が耐えられない。ここで死ぬ!」


吉川 「なんで? 偶然仕掛けられた爆弾を利用して感情をこじらせるなよ!」


藤村 「逃げるんなら一人で逃げれば!? でもたまには爆死した俺のことも思い出してくれ」


吉川 「爆死した友人なんて異常なキャラクターは脳にこびりついちゃって忘れようがないよ」


藤村 「じゃあどうしろって言うんだよ!」


吉川 「とにかく出る方法を考えよう」


藤村 「出るって言っても入ってきた扉は閉ざされてるんだよ」


吉川 「こうなったらもう進むしかない。なんとか扉を開ける方法を考えるんだ。もうなんでもいい。なにかアイテムはないか? 最悪ドアや壁をぶち破ってもいい」


藤村 「あ、ひょっとして?」


吉川 「なに? 思い当たるものある?」


藤村 「愛の力?」


吉川 「絶対それじゃない」


藤村 「なんで言い切れるんだよ!」


吉川 「概念じゃないと思うよ。リアル脱出ゲームで概念で解決してたらリアルじゃないもん」


藤村 「じゃあもう一個もわからない。お手上げ」


吉川 「愛の力オンリーでリアル脱出ゲームを切り抜けようとしないでくれよ。頭を使ってくれ。知能を!」


藤村 「だったらそのメモを見て! 数字と英語が本棚の本に対応してない?」


吉川 「してる。これだ。この本を。あ! スイッチだ! ドアの鍵が開いた! なんで? 最初からわかってたの?」


藤村 「……一緒に悩んだりしたかったから」


吉川 「これが、愛の力?」


藤村 「うん」



爆発

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