ギョギョ

吉川 「何食べる? 和食? 中華?」


藤村 「あー、俺魚食べられないんだよね」


吉川 「あ、そうなんだ」


藤村 「ゴメンね」


吉川 「いや、別にいいよ。そういう人いるしね」


藤村 「父が魚に命を助けられてから我が家では食べないことになってるんだ」


吉川 「思った感じの理由じゃなかったな。魚に命を助けられたの?」


藤村 「まぁ田舎じゃよくあることだよ」


吉川 「よくはないと思うよ。そのタイプの話で魚バージョンは初めて聞いた」


藤村 「そう? うちでは当たり前のように話されてたから」


吉川 「家訓で魚を禁止するくらいだから当たり前になってるのかもしれないけど。珍しいっちゃ珍しいよ。どんな状況で助けられたの?」


藤村 「どんなって、普通に。溺れそうになってたら『ギョギョー! 大変でギョざいますね!』って」


吉川 「待って待って。魚ってさかなクンなの?」


藤村 「いや、種類はよくわからない」


吉川 「種類とかじゃなくてさ。種類は人類じゃない? 『ギョギョー!』って言いながら来る人」


藤村 「え? どういうこと? お前はどこまでを人だと解釈してるの? イルカとかは哺乳類だし知能が高いというからほぼ人と思ってるタイプ?」


吉川 「違くて! 魚は『ギョギョー! 大変でギョざいますね!』って言わないでしょ」


藤村 「じゃあなんて言うの?」


吉川 「なんても言わないよ」


藤村 「それは無口なタイプの魚でしょ?」


吉川 「魚に無口なタイプとか饒舌なタイプとかいるの?」


藤村 「なんでいないと思ってるのかがわからないんだけど。人間にだっているだろ?」


吉川 「人間にしかいないでしょ。おしゃべりな魚介類、植物、昆虫とかいないよ?」


藤村 「偏見が強いな。自分が会ったことないタイプは存在しないって考えてるの? オタクに優しいギャルなんて存在しないって言い張るタイプだ」


吉川 「偏見じゃなくて。しゃべるか? 魚?」


藤村 「結構悩みとか相談されるよ? 『やっぱ淡水憧れるんスよねー』みたいなの」


吉川 「相談受けてるの? 魚と会話ができる能力の一族なの?」


藤村 「言ってる意味がわからないんだけど。お前は俺となんで会話できてるの? 特殊な能力があるから?」


吉川 「そうじゃなくて。人間同士だからでしょ?」


藤村 「それさ、あんまり人前で言わない方がいいよ。レイシストだと思われる。自分と同じ属性じゃないと口も利かないってのは俺は感心しないな」


吉川 「魚でしょ? 魚をそんな同列に平等だからって考える?」


藤村 「あんまり言うと怒るよ?」


吉川 「あ、そんな感じなんだ。ゴメン。初めて触れた文化だから、混乱しちゃって。お前にとってはそういうことなのね」


藤村 「たかが人間風情が魚に対して平等だと考えるなんて思い上がり過ぎだよ」


吉川 「んん? 風向き変わってきたな。平等という思想じゃなくて魚の方が上なの?」


藤村 「まだ言うか?」


吉川 「だって、それはおかしくない? いや、お前にとって魚は大切な存在だから人と同じくらい大事に思ってるっていうならね。極端な人権思想としてはありうる範疇かと思ったんだけど。それだと逆に人を差別してるじゃない。それは正しくないでしょ。そんなやつにレイシスト呼ばわりされたくないよ」


藤村 「ギョギョ?」


吉川 「ギョギョじゃないよ。そんな魚カルトのやつに思想のことをとやかく言われたくないね。お前の配慮して同意しようと思ったけど、どう考えても人間の方が魚よりは上だろ、この人間社会においては!」


藤村 「味が?」


吉川 「味じゃないよ! すべての価値観が味で決まるわけじゃないんだよ。あと人間の味なんてジャッジしようがないだろ!」


藤村 「あっそう! そこまで反発してくるなら俺にも言い分があるけど?」


吉川 「なんだよ!」


藤村 「オタクに優しいギャルはいるからな?」


吉川 「そこは別に反発してないよ!」



暗転

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