中止会見

吉川 「今回の実験は失敗という認識でよろしいでしょうか?」


藤村 「いいえ、我々共の認識では今回はあくまで想定内の事態であり、失敗とは考えておりません」


吉川 「しかし途中で中止されたのは予定通りではないのではないでしょうか?」


藤村 「それはですね、専門的な部分も多いのですが何が起こったのかを具体的に説明しますと、なんか面倒くさくなっちゃったんです」


吉川 「は? え、なんて?」


藤村 「なんか、面倒くさくなっちゃった。です」


吉川 「そんな理由あります?」


藤村 「専門的な部分もありますので、すべてご理解いただけるとは思っておりませんが」


吉川 「いや、専門的とかじゃないでしょ。面倒くさくなっちゃったの? ダメでしょ、そんな理由は」


藤村 「そんなことはありません。実は今朝、家を出る段階でちょっと面倒くさいなと感じる兆候はありました」


吉川 「兆候を感じるなよ。面倒くささは予め排除できる要因でしょ?」


藤村 「その辺りに認識の違いがあるように思われます。そもそも、私は今日起きた時点で二度寝しちゃおっかなという気持ちだったのです。しかしそれを押してまで来た時点で評価はしていただきたい」


吉川 「全然評価できないよ。当たり前だろ、そんなの。誰もが二度寝したい気持ちを押して生きてるんだよ。この会見だって言ってみればみんな面倒くさい気持ちを押し殺してきてるんだよ!」


藤村 「そのような状態で万が一事故が起きた場合、あなたは責任を取れるのですか?」


吉川 「自分の方が立派だって言うスタンスで問い詰めないでくれる?」


藤村 「我々は科学の未来を見据えています。より多くの人が幸せになるために、そう思って様々な実験を繰り返しているわけです。お気楽に面倒くさいなーなんて思いながらできる仕事ではないのです」


吉川 「だからって面倒くさいからやめるって選択肢ありうる? そもそも思うなって話でしょ?」


藤村 「我々はあくまで人間です。科学に従事しているだけで万能の力を手に入れたわけではない。神ならざるものに対してそこまで望むのは無理というものです」


吉川 「いや、そんなレベルの話? 神じゃなくても面倒臭さと向き合ってる人いるでしょ。だいたいあなたがそうだとして他の人たちはどうだったんですか。反対意見もあったでしょ?」


藤村 「他の職員はスプラ? 私はちょっと詳しくはないのですが、そのスプラトゥーンというものをやりたくなっちゃったらしくて、まいっかという結論に至りました」


吉川 「まいっかという結論なんてないんだよ。どの団体が結論としてまいっかを選ぶんだよ。スプラトゥーンは仕事終わったあとにやれよ! なんでそれを許しちゃってるのよ」


藤村 「我々としましては想定内の事態であったために予定通り停止作業を行いました」


吉川 「想定するなよ。そんなのを。事前のブリーフィングで話すの? 途中でスプラトゥーンやりたくなる可能性があるのですが、って? その時点でそいつはメンバーから外せよ」


藤村 「先程も申しました通り、コントロールのできない様々な要因というのは存在するのです。気候や自然の状況もそうですし、テーブルに誰かが飲み物こぼしたせいでベタついているとか、椅子の高さがあってないとか、なんか記者の顔がムカつくとか、すべての要因を排除することはできません。その中で結果を求めているということをご了承下さい」


吉川 「後半のやつはほぼコントロールできるだろ。なんだよ、椅子の高さって。それこそ一番コントロールできるやつだろ」


藤村 「なんか空気圧のやつで難しいんです」


吉川 「聞けよ! できるやつに聞け! いるだろ、誰か。もしくはちょうどいい椅子を用意しろ。あと記者の顔ってなに? 関係ないだろそんなの」


藤村 「次回はそのような要因をできる限り排除して望みたいと思います」


吉川 「顔がムカつくからって取材できないのかよ」


藤村 「専門的な話になりますが、喋り方もキモいのです」


吉川 「全然専門じゃないだろ。個人の感想だろ。次も来るからな!」


藤村 「では次回、気が向いたらちゃちゃっと再開しようと思います」


吉川 「全部気分でやるなよ!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る