判別

吉川 「両手の指を組んだ時にどっちの手の親指が上に来るかで右脳人間か左脳人間かわかるんだよ」


藤村 「右脳人間って脳の全部が右脳ってこと?」


吉川 「それはモンスターだな。バランス悪すぎるだろ。比較的どちらが優位なのかっていう程度だよ」


藤村 「それってちょうどいい割合の人間はどうなるの? 右脳と左脳のバランスが抜群なやつ」


吉川 「いや、そんな厳密なことじゃないから……」


藤村 「指を組んだ瞬間に脳の処理がループに入って強制終了したりしない?」


吉川 「指のちょっとした位置で脳に負荷が掛かるわけじゃないから大丈夫だと思うよ」


藤村 「怖いな。俺はバランスがメチャクチャいい可能性があるからなぁ。組み合わせた瞬間に脳が爆発したらどうしよう」


吉川 「じゃあ、やらなきゃいいんじゃない? そこまで嫌がってるのを無理を押してまでするようなことじゃないよ。ただの遊びだから」


藤村 「そういうのだったら俺も知ってるんだよ。まず箸を持ったり字を書いたり両手でやってみて、右手でやりやすかったら右手器用人間。左手の方がやりやすかったら左手起用人間だから」


吉川 「うん、それは世界中の人が知ってる」


藤村 「あ、知ってる?」


吉川 「気づいてるの自分だけだと思った? 利き手っていうんだよ。あんまり器用人間って言い方はしない」


藤村 「すごいマウント取ってくるな。感じ悪い」


吉川 「いや、知ってるから。みんな。俺だけじゃなく」


藤村 「だったらこれ知ってるかよ? 右手の人差し指の爪を剥いだ時と、左手の人差し指の爪を剥いだ時の色の違いで暑がりか寒がりかわかるの」


吉川 「なにそれ!? 爪を? 剥ぐの?」


藤村 「剥ぐっていうか、その下の皮膚の色ね」


吉川 「色の確認のために爪を剥ぐんでしょ?」


藤村 「爪を剥ぐこと自体は重要じゃないから。皮膚の色。メロンッなってる皮膚があるじゃん。剥いだあとに」


吉川 「剥いだことないからわからない。その、暑がりか寒がりか程度の判別に対して取り返しのつかないリスクを伴ってない?」


藤村 「取り返しは付くよ。爪はまた生えてくるから」


吉川 「そういう問題じゃないよ。痛いだろ」


藤村 「脳が爆発するよりマシだろ!」


吉川 「脳は爆発しない。それはお前が勝手に暴走した空想だから」


藤村 「そうやって脳のバランスのいい俺を嫉妬して見下してるんだ? せっかく教えてあげた暑がり寒がり判定も小馬鹿にして」


吉川 「小馬鹿にはしてないけど、暑がりか寒がりかはわからない? 自分の感覚で」


藤村 「そんなもん、右脳か左脳かも自分の感覚だろ! 他人にジャッジされるようなことじゃないんだよ!」


吉川 「確かに。でもそういう遊びというか、雑談の時の話題程度のやつだから」


藤村 「それをいうならレントゲンを撮ってみて悪性の腫瘍があったら死ぬから!」


吉川 「それはそうだな。言ってること尤もだけど、雑談の時の話題にはならないよ。『こーんなデカい悪性の腫瘍があってさ。ワッハッハ』みたいなこと言えないでしょ」


藤村 「俺の言うことをいちいちそうやって揚げ足取るのやめてくれない?」


吉川 「ゴメン、そういうつもりじゃなかったんだけど。なんか素直に頷けない感じがしちゃって」


藤村 「本当に悪いと思ってる? こいつ馬鹿だから謝った振りだけしておくかって内心笑ってない?」


吉川 「そんなことないよ! 本心だよ!」


藤村 「心から謝罪してるか振りだけかわかる判別法があるから。まず膝の皿を思い切り叩いて、その亀裂の入り方で……」


吉川 「わかった。もう今後何も判別しないことを誓う!」



暗転

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