言い方

藤村 「猪口才な、お前のような小虫、パンケーキのようにぺちゃんこにしてやる!」


吉川 「そう簡単にやられるかよ! ここまで俺を支えてくれた友に顔向けできないぜ!」


藤村 「くだらん! いくらゾウガメのように意気がってもそれだけ傷ついては力も出まい」


吉川 「そんなことないぜ! 体力が尽きようと、みんながくれた熱い魂は燃え続けてる!」


藤村 「まったく、風鈴のように煩いガキだ。いつまでそうほざいていられるかな」


吉川 「……いつまでだって言ってやるよ!」


藤村 「今までお前のように挑んできたものは、シーラカンスぐらい掃いて捨てるほどいた。しかしそのすべてのものは……」


吉川 「ちょっ、ちょっと待ってくれるかな?」


藤村 「なんだ? ボサノバのようにこちらの気を削ごうという作戦か?」


吉川 「それ! なんかちょいちょい表現が気になるな。ボサノバのように気を削ぐ? どっちかというとボサノバは流れてても気にならない方の音楽じゃない? BGMに最適な」


藤村 「激しいビートのもある! 俺が思い浮かべてたのはそっち!」


吉川 「そうかもしれないけど。一般的に思い浮かべるのがさ。シーラカンスも掃いて捨てるほどいるイメージないんだけど」


藤村 「生息地に行けば結構いる! 割りと現地ではポピュラー」


吉川 「俺は現地の人じゃないもの。あくまでイメージだけどあんまりいなそう」


藤村 「もっと希少な絶滅危惧種はいくらでもいる!」


吉川 「そうかもしれないけどね。あとなんだっけ? 風鈴のように煩い? 風鈴は心静める音色じゃないの?」


藤村 「風の強い日だよ!」


吉川 「そんな日に風鈴出す方が悪いよ。そりゃ煩い時もあるかもしれないけど。涼を取るときの音でしょ? 煩いんだったらしまいなよ」


藤村 「うちの風鈴は煩いの!」


吉川 「煩さ表現ならもっと適切なのある気がするんだよ。なんであんまり煩いって思ってる人がいない風鈴をチョイスしたの? その感性のズレが気になるんだよなー」


藤村 「人を壊れかけのラジオみたいに言いやがって!」


吉川 「それも! 壊れかけのラジオ? なんで?」


藤村 「なんでって、チューニングが合ってない的な……」


吉川 「あー、そうか。でもどっちかというと壊れかけのラジオって音が出ないとか、音が途切れるイメージじゃない?」


藤村 「壊れ方にも色々あるだろ!」


吉川 「そうだね。色々な壊れ方あるよ。なんかあながち間違いとも言えない感じが余計に気持ち悪い。壊れかけのラジオが一番的を射た表現だと思ってる?」


藤村 「急にだから! じっくり考えたわけじゃない。急にパッと出したやつにを頑固な油汚れみたいに指摘するなよ!」


吉川 「頑固な油汚れじゃないな。どっちかというと重箱の隅。部屋の隅の埃が溜まってるとかさ、そっちならいいんだよ。頑固な油汚れは誰が見ても汚れてるなって思うでしょ」


藤村 「隅っこの頑固な油汚れだよ!」


吉川 「まぁ、隅っこも汚れなくはないけどさ。パンケーキがぺちゃんことかさ。最近のパンケーキはふわふわだよ? ふわふわを表現する時に持ってくるのがパンケーキの本懐だよ?」


藤村 「うちはそうだったから!」


吉川 「ぺちゃんこだったんだ。パンケーキ?」


藤村 「貴様、別に俺のことはどう言ってもいいけど、うちのお母さんのパンケーキのこと悪く言うなよ」


吉川 「俺は悪いと思ってないよ? むしろお前の境遇を気の毒だと思ってるくらいで」


藤村 「……バーカ!」


吉川 「急にどうした?」


藤村 「バーカ! バーカ! 死んじゃえ!」


吉川 「表現の齟齬を指摘されるの嫌がって急に語彙が貧困になったか?」


藤村 「アホー!」


吉川 「いいけどさ。そんな面白みのない罵倒受けてもこっちの気持ちは盛り上がらないな」


藤村 「お前のかーちゃん、最近の若いアイドル区別つかないー!」


吉川 「的は射てるけど、そんなにダメージねえよ!」



暗転

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