さる国

吉川 「あんまり人に言わないでね。実は昨日バイト先にさる国の王族が来てさ」


藤村 「猿の国の? すげぇ! え? 何ザルが来たの?」


吉川 「猿の国じゃない。人間の国。さる人間の国の王族が来てさ」


藤村 「猿人間? 人間のパワーと猿の知性を兼ね揃えたハイブリッド種族? すげぇ!」


吉川 「猿人間じゃない。人間。ただの人間。人間のパワーと猿の知性じゃ悪いとこ取りだろ。弱まってどうするんだ。ただの人間のさる国の王族」


藤村 「人間の国VS猿の国ってこと? 戦争してるの? すげぇ!」


吉川 「違うんだよ。言うよな、さる国って。猿とは関係なしに」


藤村 「わかった! ゴリラ? ゴリラの国ってこと?」


吉川 「何もわかってないな。クイズじゃないんだよ。そもそもどこからでてきたんだよ、ゴリラは」


藤村 「はい! オランウータン! なぜならアジア圏だから!」


吉川 「理由も聞いてないしすごい勝手に解釈を進めていくな」


藤村 「だったら初めからオランウータンの国って言えばいいのに」


吉川 「正解じゃないんだよ。オランウータンの国から何が来るんだよ。違う。人間の! さる国の! 王族!」


藤村 「王族か! ということは、キンシコウ! 学名がスレイマン一世の皇后のロクセラーナから来てるから!」


吉川 「詳しいな! お前がそんなにサルの知識に長けてるとは知らなかったよ。だけど猿の話は微塵もしてないんだ」


藤村 「ピグミーマーモセット! 小さいサルとして有名。本当はベルテネズミキツネザルの方が小さいけど一般的に知られてるのはピグミーマーモセット!」


吉川 「詳しすぎて気持ち悪いな。なんだよ、一般的に知られてるって。そんな知識知らないよ。微塵もしてないって、小さいサルの話をしてるってことじゃないからな」


藤村 「じゃあ何のサルの話をしてるんだよ?」


吉川 「サルの話はしてないんだよ。一度も。さる国って言わない? そういう言い方聞いたことない?」


藤村 「ある! サル関係の資料を見てるとよくでてくる」


吉川 「それは使ってる意味が違うよ。そんなところでさる国って使う筆者が悪いよ。『さる』ってのは、具体的に名前は出さないけど漠然と指し示してる感じの『さる』だよ」


藤村 「それがゴリラの国であると?」


吉川 「違うよ? ゴリラのゴの字もでてないのになんでそう思った?」


藤村 「コンゴ? ゴリラやチンパンジーが生息するアフリカの国?」


吉川 「ゴリラから話を立脚させるのやめてよ。そもそもゴリラは関係ないんだから」


藤村 「もうどの国だかわからない!」


吉川 「いいんだよ、わからなくて。こっちもわかって欲しいなら具体的な名前を出すよ。でも一応重要なことだから濁してるの。話の内容で重要なのは『王族が』って部分だから。さる国の時点で引っかかられると話が進まないんだよ」


藤村 「ダメなんだよ、俺。そういう漠然とか曖昧とかが許せないタイプなの。パキッとわかってないと気持ち悪くて聞いてられない。町田市は神奈川県みたいにきっちり断言して欲しい」


吉川 「町田市は東京都だけどな、一応。その断言間違えてるぞ。間違っててもいいから断言して欲しいって一番危うい考えだから。マスクは必要ない! とか極端なこと言い出すから。曖昧とかそういうの受け入れられる方がいい」


藤村 「いいや、すべてのことは割り切れるはずだ。曖昧なことを言うのは真実を知らない馬鹿だからだ。どこの国だ? ボノボの国か? タマリンの国か? ニホンザルの国か?」


吉川 「ニホンザルの国は日本だろ。割り切るにしてもなんでサル関係のみで割ってるんだよ。ありのままをそのまま受け入れろよ。無理に白黒つけたがるなよ」


藤村 「白黒、ということはアビニシニアコロブスの国か!」


吉川 「もうそれでいいよ」



暗転

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