風水

吉川 「では藤村さん。この家の風水のアドバイスをお願いします」


藤村 「わかりました。これは正直、かなり大変なことになりそうですね」


吉川 「そうなんですか? この家は何か悪いことが?」


藤村 「いいえ、さっきお昼ごはん食べすぎちゃって眠くなってきたので」


吉川 「あなたが? 個人的に? その事情は知らないよ」


藤村 「途中で面倒くさくなって寝ちゃうかも知れません」


吉川 「知れてよ! 寝るなよ。仕事で来てるんだろ」


藤村 「そもそもこの家、眠くなりやすいんです」


吉川 「そんな風水的な要因があるんですか?」


藤村 「適度に加湿されててちょうどいい温度に調節されてる。そのベッドなんかなりいいやつじゃないですか?」


吉川 「風水関係なし!? あなたが寝たいだけでしょ?」


藤村 「いいえ、普通の家だとだいたい隣に騒音を出す老人などがいて眠れないんですよ。ここはそれがない」


吉川 「だいたいいるの? あんまりそんな話知らないけど。うちの隣はいないよ?」


藤村 「そうですか? それは風水的に良い家ですね」


吉川 「それ風水じゃなくて地域の治安の話だろ。迷惑な老人は」


藤村 「この辺りの老人はみんな死んだのかな?」


吉川 「不吉なこと言わないでよ。もっと風水のためになるアドバイスをお願いします」


藤村 「そうですね。玄関入って最初の部屋、こちらはリビングですかね。このリビング、どうしても散らかってしまいがちですよね」


吉川 「そうなんですよ。気をつけてるんですが忙しいとどうも」


藤村 「なのでこちらの方向ですね。この辺りにはグチャグチャコーナーを作るといいです」


吉川 「グチャグチャコーナー? 聞いたことないですけど、それは風水用語のような?」


藤村 「いえいえ、一般的に言われてるグチャグチャコーナーです。あるでしょ? 片付けるのが面倒くさくてグチャグチャのまま。グチャグチャの中から使うものを探して、終わったらグチャグチャのところに置く。あれどこ行ったっけな? って時にまず最初に探す場所です」


吉川 「ないです。なに、一般的に言われてるって。初めてその概念を聞いたよ」


藤村 「それはおかしいですね」


吉川 「おかしいのはあなただろ。そういうことにならないように片付けてるんだよ。頑張って」


藤村 「そんなちゃんとした人います? 人の心はある? ロボなの?」


吉川 「あるよ、人の心。なんだよ、グチャグチャコーナーって。まず見栄えが悪いでしょ、リビングに。人も来るのに」


藤村 「いえ、大丈夫です。そこはもう諦めてるんで」


吉川 「お前が個人的に諦めてるだけだろ。諦めを強要するなよ!」


藤村 「グチャグチャコーナーはあると良いんですよ? 掃除しなきゃなって思った時もグチャグチャコーナーを見れば、あれに手を付けるくらいなら、まいっか。って考え直せますし」


吉川 「解決してないだろ! まいっかじゃないんだよ」


藤村 「あとこちらの角、ここにはご家庭でどうしてもでてしまう生ゴミ、これを置くのが良いと思いますね」


吉川 「置くの? なんで?」


藤村 「ほら、捨てる日忘れちゃったりするでしょ? 面倒くさくなったり。そんな時にしょうがなくここに置くように決めておくと気が楽になります」


吉川 「捨てろよ! ちゃんとしろ! 気を楽にする方向ばっかり目指すんじゃないよ」


藤村 「ただ生ゴミの場合は匂いも気になりますよね?」


吉川 「そうだよ、だから捨てろって言ってんの。あえて取っておくことなんてないだろ」


藤村 「そんな時のためにこの方角にものすごい臭いものを置きます」


吉川 「なんでだよ! より強烈な臭みで打ち消そうとするなよ! ダブルで臭いだろ」


藤村 「はい、ダブルで臭いです」


吉川 「認めるなよ! シングルの臭さも嫌なんだよ。部屋がどんどん魔窟みたいになってきてるだろうが!」


藤村 「なっちゃうものはしかたないですね」


吉川 「お前がしてるんだよ! 状況の悪化しか招いてない。風水的に過ごしやすい部屋にしろって言ってるんだよ!」


藤村 「でしたら一番いいのがこの方角です」


吉川 「この方角をどうすればここまでの惨状が改善するんだよ!」


藤村 「はい。この方角にずっと行きますと、できたばかりのキレイなビジネスホテルがありますので」


吉川 「他力本願!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る