マネー払い

藤村 「いらっしゃいませ。当店は現金の取り扱いをしておりませんがよろしいでしょうか?」


吉川 「あ、そうなの? 時代だなぁ。電子マネーとか?」


藤村 「はい。カード、各種電子マネー、金歯などでお支払いできます」


吉川 「金歯でも? そんなので払うやついるの? ナチみたいだな」


藤村 「あとは金目のものでしたら可能ですがお釣りは出ませんので」


吉川 「物々交換みたいになってきた。これむしろ時代遅れてるだろ」


藤村 「宝飾品や時計などであれば可能ですが」


吉川 「通貨の流通事情の良くない外国に来た感じになってるな」


藤村 「あとはタバコなどは人気です」


吉川 「いよいよ外国の軍隊に渡す賄賂みたいになってきた」


藤村 「それか残りの寿命ですね」


吉川 「余命で支払うの? ここカフェでしょ?」


藤村 「はい。コワーキングもできるコーヒーハウスです」


吉川 「そんなしゃらくさい言い方してるのに寿命で?」


藤村 「そうですね。もう本当に金目の物を何も持ってなかったお客様からはそれでお支払いいただきました」


吉川 「どういうシステムで吸い上げるの? 寿命を。ちゃんと吸い上げてる? ただ殺してるだけじゃないの?」


藤村 「そんなことはないですよ。お客様も納得してお支払いしていただきましたし」


吉川 「死神がいるの、お店の顧問として? お釣りでないんでしょ?」


藤村 「お釣りは出ないですね。逆にどうします? お釣り貰って」


吉川 「いや、だってさ。残りの全人生でしょ? 寿命から10分とかではないわけじゃない?」


藤村 「私だったら他人の残りの人生もらってもちょっと困惑しますね」


吉川 「いや、他人のはいらないよ。自分ので」


藤村 「ちょっと価値観違いますね」


吉川 「そうだよ! すごい真っ当なこと言ったな。寿命で支払わせるタイプのお店は価値観違うよ? 誰ともあってないと思うよ?」


藤村 「あくまでお客様が希望したからでありまして」


吉川 「その余命吸い取られた人、どうなったの?」


藤村 「しばらく店先に素っ首吊るしておきました」


吉川 「見せしめじゃん! 無銭飲食しようとしたから殺して見せしめにするのと行動は一緒だよ」


藤村 「そんなことないです。うちのコーヒーは資格を持ったバリスタが丁寧に淹れてますから」


吉川 「そこは別に問題にしてないよ。コーヒーの味に行く前に引っかかる場所が多いだけで」


藤村 「お客様、ひょっとして電子マネーのデの字もご存知ない?」


吉川 「いや、知ってるよ。デの字は知ってるけど電子マネーと残りの寿命が同列で並ぶことないでしょ。見たことないもん、レジで『残りの寿命もお使いできます』ってマーク」


藤村 「交通系ICカードもいけますよ?」


吉川 「まぁ、それで支払えばいいのか」


藤村 「ただチャージが足りなくて結局臓器で支払っていった方もいらっしゃいましたから」


吉川 「臓器で! もう何でもありだな。暗黒街じゃん」


藤村 「でも現金を取り扱わないことに寄って大幅なコスト削減となっておりまして、他店よりも料金の方は安くなってますよ」


吉川 「料金も安いけど、命も安い感じがしてるんだよ」


藤村 「一応危険物などを持ち込んでないか、そちらのゲートの方をお通りください」


吉川 「本当にカフェなのかよ。なにされるかわかったもんじゃねーな」


ビーッ!


藤村 「あー、お客様。どうもチャージが足りてないようで」


吉川 「え? そんなこともわかるの? 通っただけで? じゃあちょっとチャージするわ」


藤村 「いえ、寿命の方が」


吉川 「怖いこと言うな」



暗転

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