カラオケ

藤村 「いらっしゃいませー」


吉川 「一人で」


藤村 「あれ? お客様、こちらはカラオケボックスですがよろしいですか?」


吉川 「そのつもりですけど、一人じゃまずいですか?」


藤村 「いえいえ、大丈夫です。ただお客様がドスケベそうな顔してたので風俗と間違えられたのかと」


吉川 「間違えねーよ。失礼だな。なんだよドスケベそうな顔って」


藤村 「それでしたらお客様。まずこちらの方を確認していただきまして」


吉川 「え、なにこれ?」


藤村 「鏡です」


吉川 「ドスケベそうな顔を確認するターンに入ってたの? 確かに『なんだよドスケベそうな顔って』って言ったけど、本当に尋ねたわけじゃないんだよ。別にいいよ。知ってるよ、自分の顔くらい」


藤村 「でしたら、そんなに大きな声で反論されましても」


吉川 「自分の顔は知っててもドスケベそうだと自覚はしてなかったんだよ!」


藤村 「ではカラオケの方お時間はいかがしましょう」


吉川 「まず1時間で」


藤村 「1時間。かしこまりました。大丈夫ですよね? カラオケで」


吉川 「カラオケでいいんだよ! ここまできて1時間の風俗のコースと間違えないだろ。念押すほどドスケベそう顔か!」


藤村 「そうしましたら、お客様のお部屋番号のほうがZOR-267-8856になります」


吉川 「複雑だな。覚えられないよ! 一体何部屋あるんだ」


藤村 「全部で3部屋です」


吉川 「だったらABCでいいだろ。なんでそんな覚えられない名前にしてんだ。無駄だよ。スタッフも混乱するだろ」


藤村 「スタッフは通称玄武の間と呼んでます」


吉川 「四神の名前なのか。おいおい、それに例えるなら一匹足りないだろ。脱落したの誰なんだよ」


藤村 「気になります? 脱落したのはピンクマーメイドです」


吉川 「いないだろ、そんなやつ! 四神に。そんなちょっと風俗を司る神獣みたいの。初めて聞いたよ!」


藤村 「あとお客様、ただいまキャンペーン中でして採点システムで100点を取りますと当店から豪華な景品をさしあげることとなってます」


吉川 「あ、そうなの? 挑戦してみようかな」


藤村 「ですので、できるだけ点数は控えめでお願いします」


吉川 「本音を言うなよ。お店側の事情としてはそうだろうけど! そんなの気にして控えめで歌いたくないよ」


藤村 「お客様には豪華な景品をあげたくないんですけど、狙ってきます?」


吉川 「そんなこと聞く? ダイレクトに。これから楽しい気持ちでカラオケしようと思ってたのに」


藤村 「それでしたら途中で電話鳴らしたりして嫌がらせすることになりますけど」


吉川 「そこまでして? 徹底してるな。どうせ100点なんて取れないから気にするな」


藤村 「あとこちらキャンペーン中でして、ご希望のお客様にグランドピアノをお貸しすることができるんですがどうしますか?」


吉川 「そんなの貸してくれるの? 普通いいところタンバリンやマラカスじゃない? グランドピアノ?」


藤村 「搬入に1時間半ほどかかりますが」


吉川 「大事になってるじゃん。1時間の予定なのに搬入の途中で終わっちゃうよ。いいよ。そもそもグランドピアノ弾けたらカラオケ来ないで弾き語るよ」


藤村 「あとキャンペーン中でドリンクの方が一杯サービスで付くのですが、焼肉のタレと麺つゆ、どちらにいたしましょうか?」


吉川 「二択なの? それをドリンクって提供するお店は保健所に踏み込まれたほうがいいと思うよ」


藤村 「麺つゆは薄めればお吸い物っぽく飲めますが?」


吉川 「お吸い物もおかしいだろ。カラオケの一杯で。じゃあ、麺つゆで」


藤村 「麺つゆの方は各社銘柄ごとに20種類から選ぶことができるのですが」


吉川 「だったら他の飲み物のバリエーション揃えられるだろ。なんで麺つゆ内で彩りを出したかな!」


藤村 「キャンペーンなので」


吉川 「そのキャンペーンを企画したやつクビにした方がいいぞ。マジで」


藤村 「あとちょうど本日キャンペーン最終日ということで、お客様に喉のケアをしていただいて存分に歌っていただこうとこちらをご用意しました」


吉川 「なに?」


藤村 「タートルネックでございます」


吉川 「キャンペーン終わってから来ることにする!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る