逆の立場

藤村 「お前そういうけどさ、逆の立場になって考えてみ?」


吉川 「は? 正論言ってるだけだろ? 逆だって一緒だよ」


藤村 「この俺とお前の関係が正位置だとするだろ?」


吉川 「タロットカードみたいな言い方するなよ。逆の立場だからって言ってる内容は変わらないよ!」


藤村 「例えばお前の頭と足の位置が逆になったとして考えてみろよ! その状態でも同じこと言えるのかよ?」


吉川 「思ってたのと違う逆の立場が出現したな。なにそれ? 逆立ちしろってこと? 逆立ちしたところで考え方は変わらないから」


藤村 「結構声出すのも大変になるけど同じように言える?」


吉川 「いや、それは体勢的にきついから同じ感じでは言えないけど言ってる内容は一緒だろうがよ」


藤村 「じゃあ口じゃなくて尻から喋っても同じこと言えるのかよ?」


吉川 「なに? どういうこと? 設定がよくわからないんだけど」


藤村 「だから尻で喋る人だよ。口と尻が逆の人。尻から食べて口からうんこするの!」


吉川 「するの、じゃないよ。なんだそのモンスター。なんでそんな状況にならなきゃいけないんだ」


藤村 「そのくらい逆の立場でも同じこと言えるのかってんだよ」


吉川 「それはもう立場とかじゃないよな。ファンタジーじゃん。なに、尻から喋るって。なり得ないだろそんな立場には」


藤村 「だからあくまで考え方の問題だよ。もし自分がそうだったとして、同じこと言えるのかっての」


吉川 「もし自分が尻で喋るモンスターになったらって仮定自体が想像力の外にあるんだけど。そんな風になったらって人生で一度も考えたことない」


藤村 「今考えてみろ。逆の立場になって」


吉川 「逆の立場ってそういうことじゃないだろ。その立場になったらもう考えるも何も諦めて死を選ぶよ。嫌だよそんな状態で生きるのは」


藤村 「な?」


吉川 「な、じゃないだろ。なにも言いくるめてないよ。その悲しいクリーチャーが嫌だってだけで思想的に変わったわけじゃないから」


藤村 「だったら逆の立場でさ、例えば身体の内臓がひっくり返って表面に出て、皮膚が内側になった状態で考えてみろよ」


吉川 「そんな謎のスタンド攻撃を受けた状態で考えられるかよ! 死んでるだろ、それはもう」


藤村 「ギリ生きてるとして」


吉川 「ギリで生きてたとしても何かを主張するまでいかないだろ。もうライフのカウントダウンは始まってるよ」


藤村 「な?」


吉川 「な、じゃねーって! その猟奇的な状態になったやつと意見を交わせる? 主張が変わる変わらないの問題じゃないだろ」


藤村 「それを踏まえて今でも同じ意見ってこと?」


吉川 「何を踏まえたんだよ? 尻が口になったり内臓が露出したりするのを踏まえたことはないんだよ。想像するのも気持ち悪い」


藤村 「本質は何も変わってないだろ? 内臓が馬の内臓になるわけじゃないし、皮膚がプラスチックになるわけでもない。逆の立場になってもお前はお前だ」


吉川 「認識できるか? 内臓裏返ってる俺がやってきて『あ、本質的には吉川だな』って思えるのか、お前は?」


藤村 「喋ってみればわかる」


吉川 「喋ったところで尻からなんだぞ? コミュニケーションとる気なくなるだろ」


藤村 「たとえ尻から喋っても吉川であることには変わりない」


吉川 「そこは変わってくれよ。尻から喋る状態で俺と認識されたくないよ。もう一思いに殺してくれよ」


藤村 「なら死ぬ前になにか言い残すことはないか?」


吉川 「なってないからな? 逆の立場になってないから。珍奇なクリーチャーじゃないから」


藤村 「これだけ言っても意見は変わらないのか? 恐ろしく頑固だな」


吉川 「当たり前だろ? カルフォルニアロールは寿司じゃねえよ!」



暗転

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