エア・ギター

藤村 「エア・ギターが流行ってるけどさ」


吉川 「え? 今? また流行ってるの? 全然耳に入らないけど」


藤村 「流行ってるっていうか、エア・流行だけど」


吉川 「エア・流行って。流行してないからエアなの? じゃあ、流行ってないじゃん。廃れてるものにしか言わないだろ」


藤村 「エア・流行中だからこそエアしたいわけだよ」


吉川 「いや、意味がわからないよ」


藤村 「俺はもっと色々なものにエアの可能性を見てる」


吉川 「まぁ、なんでもありだからな」


藤村 「エア・ホッケーとかね」


吉川 「いや、それはあるよ。ゲームセンターにあるじゃん」


藤村 「じゃ、エア・エア・ホッケー。こう、エア・ホッケーしてる振りをする」


吉川 「すごいわかりづらい」


藤村 「エア・ゲームセンターでやる」


吉川 「それただの屋外でしょ。屋外でみんなで振りをしてたら、新しい宗教みたいになっちゃうよ」


藤村 「エア・宗教ね」


吉川 「いや、宗教には元々実在はないから」


藤村 「エア・エア・エア・ホッケー。これはエア・ホッケーをしている振りをする振りをする」


吉川 「トゲアリトゲナシトゲトゲみたいになってる」


藤村 「エア・にはエア・にわとりがいる」


吉川 「庭には二羽にわとりがいるだな。むしろエアのおかげでわかり易い文章になってる」


藤村 「エア・にわ・エア・にわ・エアとりがトゲトゲ」


吉川 「最後のトゲトゲ何? もう何を伝えたい文章なのかもわからない」


藤村 「あー、腹が減ったな。エア・ごはんでも食べるか」


吉川 「仙人か。霞食ってるの? 何の腹の足しにもならない」


藤村 「もちろん、お前のエア・おごりでなっ!」


吉川 「エア・おごりならいくらでもおごるけど」


藤村 「違うだろ。そこは、冗談は勘弁してくださいよー。ってこないと」


吉川 「これが本当のエア・ジョーダン! ってことか?」


藤村 「え、なにそれ?」


吉川 「すごいタイミングで突き放してきたな。呼吸止まりそうになった」


藤村 「エアが?」


吉川 「エアが、だよ!」


藤村 「そういう時はエラ呼吸をすれば」


吉川 「エラもありなの? ルール変わった?」


藤村 「何の話?」


吉川 「それはこっちのセリフだよ。エアの話をしてただろ、今までずっと」


藤村 「してる振りはしてた」


吉川 「エア・エアの話だったの? ものすごい複雑な概念持ち出すなぁ。今までの話に上位レイヤーがあったってこと?」


藤村 「エアの話をしてる振りをして、本当は人はなぜ生きるのかという問いを考えていた」


吉川 「俺はその振りのどうでもいい話につきあわされてたの?」


藤村 「人生って結局なにかの振りをして過ごす時間なんじゃないかと思うんだよ。自分という本来ありもしないキャラクターを演じて逸脱しないように暮らす」


吉川 「エアを柔軟に哲学に取り入れてきたな」


藤村 「そんな思いを込めて歌います。聴いてください」


吉川 「路上のシンガー・ソングライターみたいなこと言い出した」


藤村 「ワン・ツー・ワンツーカモン!」


吉川 「あ! 思った通りエア・ギターだ!」


藤村 「……」


吉川 「そして口パクだ! 曲もないのに! なにもないのに! 聴いてくださいと言ったくせに無音! すべてが虚無! 餌をもらった鯉みたいになってる」


藤村 「……」


吉川 「動きだけで煩わしい。なにこれ? 見てなきゃいけないのか? 振りのバラエティも乏しいからいい加減飽きてきた」


藤村 「センキュー!」


吉川 「終わった! 終わる感じのわからないまま、なんとなく終わった」


藤村 「すみません。途中、歌詞間違えちゃいました」


吉川 「知らねーよ!」



暗転

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