マルチタスク

藤村 「なんかこの時間、タイパが悪いな」


吉川 「タイムパフォーマンス? 時間対効果のこと? あんまりそういうの考え過ぎるのもよくないと思うけどね」


藤村 「いや、もったいない。人生は有限なんだから。この時間もったいないから何かしよう」


吉川 「マルチタスクって結局集中力を欠くから生産性が上がらなくない? シングルタスクが一番だよ」


藤村 「そんなことない。マルチタスクはタイパに最高なんだから。俺なんか常にマルチタスクだもん。今こうしてマルチタスクについて語りながら野心を燃やしてる」


吉川 「野心を燃やすのはタスクに入ってるの? なんの生産性もないのに。ただ燃やしてるだけだろ?」


藤村 「そういうなら打ち明けるけど、実はうんこも我慢してる。3つの作業を並行してやってるからかなりタイパがいい」


吉川 「うんこは行けよ。むしろパフォーマンス的には早くうんこする方がいいだろ。我慢して何を成し遂げようとしてるんだよ」


藤村 「そんなに言うなら、もうここでするが?」


吉川 「そういう話じゃない。効率を重視するあまり人間性を軽視していいってことはないだろ」


藤村 「さらにこうして話しながら背中を掻いてる。ちょうど痒くなった。タイパ最高!」


吉川 「背中を掻くのはほとんどの人がマルチタスクでやってるだろ。予定に背中を掻く時間を決めてる人はいないよ」


藤村 「なんかもったいないからちょっと思い出し笑いもするわ。アハハハ」


吉川 「それをマルチタスクって言い張るの強引すぎる」


藤村 「そんなことない。思い出しと笑いの2つ稼げてるから。思い出し笑いするだけでタイパがかなり上がる」


吉川 「思い出し笑い自体をマルチタスクだと思ってる人、世界でお前一人だぞ」


藤村 「引き笑いだと更に引きと笑いで思い出しと合わせて3つ」


吉川 「だんだんキン肉マンの理論みたいになってきたな」


藤村 「この勢いでなにか効率のいいことをしたい! 書き初めとかどうかな。書きと初めでマルチタスクだし」


吉川 「なんだよ、初めって。初めだけでシングルタスクで存在することないだろ。あらゆる初めは何かに付随してるんだから」


藤村 「確かにその意見は合点がいくな。ガッテンといくで2つのマルチタスク達成。ナイスアシスト!」


吉川 「別にアシストしたつもりないよ。ガッテンもおかしいし、いくは言葉だけの形而上の行動だからマルチタスクになってない」


藤村 「お、マルチタスクじゃん? 横車を押したでしょ?」


吉川 「押してないよ。横車はそもそも行動じゃないだろ。マルチタスク以前に全く意味がないんだよお前の行動は。そもそも何がやりたいんだよ?」


藤村 「根掘り葉掘り聞くじゃん。根掘りと葉掘りで2つ稼いできたな。このままじゃ追いつかれちゃう。尻に火がついてきたな。よし、これで2つ」


吉川 「それはマルチタスクじゃないよ。尻は名詞だから。タスク発生してないから」


藤村 「ヘイシリのシリを意味してる」


吉川 「意味してないよ」


藤村 「あー! そろそろうんこの我慢が限界だ。代わりにもっとマルチタスクしなきゃタイパが悪い! しなきゃ! いんぐりもんぐりしなきゃ!」


吉川 「なんだよ、いんぐりもんぐりって。も何のことだかわからない。いいからトイレに行けよ!」


藤村 「せめてなにか一つ引き換えにしないとタイパの効率が落ちる。なにかないか! なにかー!」


吉川 「無駄な足掻きだな」


藤村 「それだ! 無駄と足掻きで2つ。よしっ! あ……」



暗転

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