味覚

吉川 「つくづくお米ってすごいと思ってさ。栄養もあるし、美味しいし」


藤村 「美味しいというのは主観にすぎないけどな」


吉川 「そうだけど、お米の美味しさって結構普遍的なものじゃない?」


藤村 「日本人の味覚に合うように改良されたからだろ。味覚の受容体が異なる者が食べたら美味しいとは感じないだろ」


吉川 「あー、旨味が海外では長らく重視されてなかったみたいな?」


藤村 「宇宙人が食べたら『何の味も感じられない。もっとガビ味が欲しい』とか言うよ」


吉川 「なんだガビ味って」


藤村 「俺たちにはない味の受容体だよ。なんか日本人は味に繊細みたいに思い上がってるようだけど、所詮ガビ味もわからない辺境の星の獣だよ」


吉川 「お前は知ってるのか、ガビ味を。というか、本当にあるのか、ガビ味は」


藤村 「見た目だってご飯はポピつきが足りないって気持ち悪く思ってる宇宙人は多いと思うよ」


吉川 「ポピつきが? どういう状況をポピついてるというの?」


藤村 「だったらお前はヌメリを知らない宇宙人にどう説明するんだよ?」


吉川 「そりゃ、ヌメヌメしてる感じで」


藤村 「ポピつきはポピポピしてるんだよ」


吉川 「ポピの想像がまったくつかない。ガビ味は不味そう。喉に引っかかりそう」


藤村 「ノド? ノドって、地球人の頭部と胴体を接続する部分に内蔵されてる管だっけ?」


吉川 「いや、お前は地球人だから知ってるだろ。なんで宇宙人目線で語ってるんだよ」


藤村 「そのくらい異文化だということを言ってるんだよ。人間にとっては毒や食用できないものこそ美味しかったりするかもしれない」


吉川 「そうだよな。プラスチックを分解するバクテリアだっているんだもんな」


藤村 「ご飯の見た目がダメっていう人だっているかもしれない。虫の卵みたいとか」


吉川 「あー、お米の方が身近すぎて全く思わなかったけど、外国の人にはそう言うのがあってもおかしくないのか」


藤村 「魚も顔がついたまま料理するなんて残酷って感じる人もいるし」


吉川 「そういうものなのか。逆に全くピンとこない俺たちの慣れっておそろしいな」


藤村 「マゞピテンのポ%ス々もロ*#§キ惰ルみたいでス又ヌΩに感じる人だっている」


吉川 「もう何をどう言ってるのかまったくわからないな。それ以前にその発音をするお前の声帯はどうなってるの?」


藤村 「コツさえ掴めば簡単だから。ちょっとポピポピさせるだけで」


吉川 「ポピポピさせるの? ここでポピつきの大ヒントが出たな。出たところでなにもわからないし、わかりたいとも思わないが」


藤村 「もちろん俺たちが美味しいと感じるものを追求してきた人たちには敬意を抱く。当たり前だけどそれはすごいことだよ。ただその世界が全てでその外側に広がってる世界を無視するっていうのも情けない話だよ」


吉川 「そっか。自分の理解できる味の中でしか考えてなかったな」


藤村 「まぁ、そんなに気落ちするなよ」


吉川 「気落ちしてるわけじゃないけど。視野が狭かったなとは思ってる」


藤村 「宇宙の何処かにはきっと俺たちのことを美味しいと感じてくれる宇宙人もいるさ」


吉川 「食べられ目線なの? 自分は美味しくないんじゃないかって気に病んだことはないんだけど」



暗転

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