なめんな

吉川 「なめんなよ、コノヤロー!」


藤村 「なめてねえよ! 飲んで食って騒いでるんだよ!」


吉川 「別に状況は聞いてねえよ。なめてんじゃねえぞ!」


藤村 「唐揚げに刺身盛り合わせだぞ! なめてるように見えるかよ! ソフトクリームじゃねえんだぞ!」


吉川 「ぁあん? なめてんのか、そういうことじゃねーだろ」


藤村 「だからなめてねえって! 食ってる! イート!」


吉川 「食品の摂取方法を問い詰めてるんじゃねえんだよ! 俺をなめてただろ!」


藤村 「なめるわけねえだろ! なんでお前を。何味なんだよ!?」


吉川 「違うって。具体的になめてるかどうかじゃないんだよ。なんでこんな事説明しなきゃいけねえんだ。ふざけんなよ!」


藤村 「ふざけてねえよ! 真面目だよ! 唐揚げと刺身盛り合わせだぞ! 真剣に向き合いたいだろうが!」


吉川 「食に対してのスタンスを問い詰めてるんじゃねえんだよ! こっちへの態度がふざけてるんだよ!」


藤村 「しっかりと目を見て話してんだよ! 見えねえのか? 真面目だろうが!」


吉川 「ちょ、待てよ。なんだよさっきから。具体的な言動で返すんじゃねえよ」


藤村 「ちょっと難しいからわかるように説明しろよ!」


吉川 「だから比喩だろうが! なめるとか。ペロってするわけじゃないんだよ」


藤村 「じゃ、なんでなめるって言ったんだよ!?」


吉川 「言うだろ。聞いたことない? なめんなよ、コノヤロー! って」


藤村 「んだと!? どういうタイミングの時に言うのか教えろよ!」


吉川 「あ、ないんだ。結構育ちが良いのか。相手を甘く見て蔑んだ態度をとることをなめるって言うんだよ!」


藤村 「はぁ? それ言ってるのお前だけじゃねーのかよ!」


吉川 「いやいや、一般的な表現だよ。特にこういうすぐバチバチする血気盛んな人種にとってはお馴染みの言葉だよ」


藤村 「なに? もう一回。なめ?」


吉川 「なめる、だよ。ペロッと舐めるのと同じ」


藤村 「じゃあお前! アイスクリームの時と喧嘩の時、どう区別つけるんだよ! そんなことできんのかよっ!」


吉川 「できるでしょ。初めてだから難しいのか? 喧嘩腰の相手を見て『アイスのことかな?』とは思わないよ」


藤村 「飴の時だってあるじゃねーか! どういう状況だか瞬時に判断できるのかよ!」


吉川 「できるよ。慣れればわかる。っていうか、慣れるも何も一度なってみればわかるから。そもそも怒鳴ってる時点でそれは喧嘩だよ。飴やソフトクリームに対してなめてるのかどうか喧嘩腰に尋ねないだろ」


藤村 「てめっ! バカにしてんじゃねえぞ!」


吉川 「それ! その時に言うの。なめてんじゃねえぞって!」


藤村 「ばっ! 急にそんな新しいカルチャーを導入できっかよ!」


吉川 「よく今までそのガラの悪い感じで『なめる』をすり抜けてきたな」


藤村 「ぁんだとっ!? あ、違っ。ちょっと今のもう一回。もう一回言って」


吉川 「なんでだよ」


藤村 「そうじゃなくて。俺が今言いたいから。もう一回バカにして」


吉川 「練習しようとしてるのか。なめるも知らないで意気がってんじゃねーよ」


藤村 「なめられてんじゃねーよ! クソが!」


吉川 「いや、なめられてるのはお前の方だから。なめてんじゃねーよ、だよ。その場合は」


藤村 「なんか言おうとすると、お前の顔をペロってする映像が浮かんじゃってなんか気持ち悪くてスッキリ言えないんだよ!」


吉川 「そんな弊害あるんだ。はじめての罵倒は。じゃあもう別に言わなくていいんじゃない? 言われた時だけ理解してれば」


藤村 「だいたい傾向はわかったよ! 教えてくれてありがたいが、こっちの気持ちは収まってねーんだよ! やんならやんぞ、コラァ!」


吉川 「まだ噛みついてくるのかよ。しつこいな」


藤村 「別に噛んでないだろ、ひょっとして味わい方全種類あるのかよ!」


吉川 「ねぇよ!」



暗転

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