バナナで釘が

吉川 「うぅ~、寒すぎるな」


藤村 「バナナで釘が打てるよな」


吉川 「いや、そこまでじゃないだろ」


藤村 「はぁ? そんな真顔で答えられても。ただの慣用句だろ」


吉川 「慣用句? バナナで釘が打てるってのが?」


藤村 「お前は顔から火が出るって言われて『人体発火現象かよ! 焼け死ぬわ!』みたいに言うの?」


吉川 「言わないけど。バナナで釘が打てるは違くない? なんかのCMのコピーじゃない?」


藤村 「なんかのCMのコピーだから慣用句じゃないってこともないだろ。土用丑の日にうなぎを食べようってのも江戸時代のCMのコピーだろ」


吉川 「だって何ていうか。バナナで釘が打てるって最近の話でしょ。江戸時代とかじゃないもの」


藤村 「最近のCMじゃないよ。これも相当古い。ただ時代性を考慮し過ぎたら今後新しい慣用句は生まれないということになるぞ」


吉川 「そっか。え、でもそんな勝手に生んでいいわけ?」


藤村 「生むのは自由だよ。そこから生き残るかはそれぞれの慣用句次第で」


吉川 「そんな海洋生物みたいな生き残りシステムだったんだ。慣用句って」


藤村 「もちろん死んでいった慣用句も少なくないし、今生き残っているからと言って今後も残るかどうかはわからないだろ。『アッと驚く為五郎』なんてもうそろそろ危ない」


吉川 「いや、それはもう死んでるわ」


藤村 「え? 為五郎さんもう亡くなった?」


吉川 「実在の人物みたいに言うなよ。そもそも慣用句じゃないと思うが、もうずいぶん前にお亡くなりになったと思うよ。『アッと驚く為五郎』に関しては」


藤村 「うかうかしてたら死んでく慣用句ばっかりになる。為五郎の遺志をついで俺たちが慣用句をたくさん残していこう」


吉川 「非実在為五郎に誓うなよ。なら驚いた時の言い方の新しいやつを考える?」


藤村 「驚いたことないから思いつかないや」


吉川 「驚いたことないのっ!? そんなわけあるか」


藤村 「『吉川もそんなわけあるかと言う』っていうのは?」


吉川 「俺の今の新鮮な驚きをその場で風味を損ねることなく慣用句にしやがったな!」


藤村 「捻りがないから『そんなわけアルカトラズ』にするか」


吉川 「捻りすぎて何を言いたいのか行方不明になってる。別に面白要素はいらないだろ、慣用句に。あと吉川もっていう要素が消えたのがちょっと寂しい」


藤村 「慣用句に残すには吉川という属人性が邪魔になる。もっと誰でも知ってる人物なら良いけど」


吉川 「そうか。もっと有名になっていつか慣用句に恥ずかしくない人物になろう」


藤村 「その人物の風格が足りないという意味の慣用句『蛍原さんじゃちょっと……』というのを考えた」


吉川 「どの蛍原さんを指してるのか明言はされてないけど失礼だからやめろよ、そういうの」


藤村 「頭に思い浮かんだその蛍原さんだよ。知名度は十分だろ。でも蛍原さんじゃちょっとさ」


吉川 「ちょっとって言うなよ。ホトちゃんを! っていうか、どの蛍原さんなのかは俺はまったくわからないけどな!」


藤村 「『賤ヶ岳の七本槍の下から三本くらい』ってのは?」


吉川 「どの武将のことを言ってるか明言されてないけど、下から三本の連中も歴史に名を残してるんだから立派じゃないか」


藤村 「下から三本でも?」


吉川 「賤ヶ岳の七本槍を上からとか下からとかで数えるなよ。七本みんなかけがえのないメンバーなんだよ。いつかまたみんなで集まろうねって誓ってるんだよ!」


藤村 「『芸能人なのに再生回数が2000』ってのも」


吉川 「誰のどの何が2000なのかわからないけど! 傷つくだろ。言われた方は。もっとポジティブな慣用句を生み出せよ。愛を知らないのかよ!」


藤村 「『勉強になります、出会いに感謝!』ってのも生み出した」


吉川 「お、それはちょっとポジティブな感じがするな」


藤村 「賤ヶ岳の七本槍の下から三本くらいのやつらが、何も成し遂げず発する鳴き声のこと」


吉川 「もうお前は何も産まなくていい」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る