福笑い

藤村 「福笑いでもやるかー」


吉川 「まだお屠蘇気分なのかよ。もう一月も下旬だけど?」


藤村 「そうだよ! まだ一月下旬だ。こんなところで目を覚ましてたまるか! このままゴールデン・ウィークまでこのお屠蘇気分を強い気持ちで維持しなくてはならない!」


吉川 「下向きの意志力が強い」


藤村 「ちょうど福笑いブームも去ったところだし、なんでも逆張りしたがる吉川にとっては絶好の機会だろ」


吉川 「福笑いブームあったか? 正月の期間中でも福笑いしてる人見なかったけど。そもそもどういうルールの遊びなのかよくわからないし」


藤村 「知らないの? 令和に入って5年も経つのに?」


吉川 「令和5年だからこそだろ。最新のカルチャーっぽく言うなよ」


藤村 「福笑いは、目隠しをして顔のパーツを顔を象った紙に乗せていって、最終的に出来上がった顔でその人の深層心理を浮き彫りにする遊びだよ」


吉川 「最後に箱庭療法みたいな一手が追加されてるな。ただの遊びじゃないシリアスさが」


藤村 「やってみればわかるよ。この目隠しをして。気をつけてね、そこについてるベトベトした物質が目に入ると失明の恐れがあるから」


吉川 「そんな物質を目隠しにつけないでくれる? なんのためにつけてるんだよ!」


藤村 「リスクがあったほうがゲームが盛り上がると思って」


吉川 「失明のリスクはゲーム内容とは関係ないだろ。目隠しする時点でハラハラドキドキするなら福笑いする必要もなくなる」


藤村 「じゃあこの失明の恐れのない何の変哲もない目隠しをしてくれ」


吉川 「変哲はなくていいんだよ。目隠しに変哲を求めるやついないよ」


藤村 「顔のパーツを渡していくから、お前なりに適切だと思う場所に配置してくれ」


吉川 「わかった」


藤村 「これは鼻」


吉川 「鼻は真ん中だな。結構この位置が重要かもしれない。真ん中がズレるともう修復不能だからな」


藤村 「これが左目」


吉川 「左目は鼻がここだからこの辺か」


藤村 「これが眼帯」


吉川 「片目なの? 独眼竜みたいな人なの? 右目の位置だからここで」


藤村 「これがオウム」


吉川 「オウムのポジションないよ。顔にオウムが付いてる人いる?」


藤村 「肩の上辺りでいいと思う。顔じゃないけど」


吉川 「まぁ、オウムを置くとしたらそこだろうな」


藤村 「これが鉤爪になってる左手」


吉川 「海賊! これはもう海賊だよ! 俺の深層心理は海賊以外ないよ」


藤村 「本当だ! 浮き彫りになったなー」


吉川 「このパーツだとそうだろ。誰がどうやっても!」


藤村 「そんなことないよ。違うパーツでもやってみる?」


吉川 「普通の顔のやつね」


藤村 「これが鼻」


吉川 「鼻、大事」


藤村 「これが両目」


吉川 「お、今度はちゃんと両方の目があるな」


藤村 「これがハコフグの帽子」


吉川 「さかなクンだよ! そのパーツ出てきたらどう置いてもさかなクンだよ!」


藤村 「好きな位置においていいんだよ?」


吉川 「位置の問題じゃないんだよ。すべてのアイデンティティがそこに集結してるんだから」


藤村 「本当だ。深層心理が出たか」


吉川 「お前次第だろ? お前が渡すパーツでなってるんだから。わかるのはお前の深層心理だよ!」


藤村 「別のパーツでやるか。まずはこのヌーブラ」


吉川 「ヌーブラ置く場所がないんだよ! 福笑いでどこにヌーブラ置くの? しかも本物のヌーブラじゃん」


藤村 「いや、目隠しにと思って」


吉川 「変哲! 目隠しの変哲をここで出してきたな! 何の変哲もないやつで頼むよ」


藤村 「じゃあまずこのマスク」


吉川 「あー、そっか。このご時世じゃ福笑いもマスクってことがありうるんだな。顔の半分隠れちゃうけど。このあたりかな」


藤村 「気をつけて! マスクの下の素顔を見られたら死を意味するから!」


吉川 「キン肉族の掟! キン肉マンだろ、これ!」


藤村 「本当だ! 深層心理でたなー」


吉川 「お前のな!」


藤村 「え? ひょっとして、俺が今、ノーブラなのわかった?」


吉川 「さっきの着用済みだったのかよ!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る