旧正月

藤村 「いやぁ、めでたいね。旧正月」


吉川 「あー、なんか聞いたことあるかも。旧正月っていつ?」


藤村 「今年は1月22日だよ」


吉川 「あ、そうなんだ。全然盛り上がってないというか、言及してる人も見ない」


藤村 「アジア圏では最大のおめでたい日だぞ? 日本くらいだ旧正月を祝わないのは」


吉川 「本当だね。あまりにも祝わなすぎてなにか文化的な禁忌に触れるんじゃないかとすら思うくらい」


藤村 「気の利いた陰謀論を生み出して独特な知識体系を遵守したがる人たちにばら撒きたいな」


吉川 「そもそも旧正月って何をするの?」


藤村 「そんな事も知らないの? 旧正月はその名の通り、正月のプロトタイプだよ。旧ザクと一緒」


吉川 「大丈夫? なるほど感がまったくない説だけど。それを押し通せるの?」


藤村 「そもそも正月ってのは旧正月から変化したものだから。お年玉も旧お年玉をあげてた」


吉川 「旧お年玉」


藤村 「夏目漱石とか新渡戸稲造であげる風習がある」


吉川 「旧札で。まぁ、それは想像の範囲内かな。絶対に違うとは思うけど」


藤村 「あと旧餅。古くなってカビの生えた餅を食べる」


吉川 「なんのために!」


藤村 「何のためにって言われたら、あらゆる行事がなんのためかわからないだろうが! 全部こじつけだよ! そもそもやらなきゃならない行事なんてないんだよ! 旧餅は餅の在庫処分だよ!」


吉川 「すごい勢いで押し切ってくるな。こっちが悪い気になってきた。でも最近の買ってくる餅は個別包装だからカビないんじゃない?」


藤村 「カビない餅は餅じゃないから」


吉川 「紅の豚みたいなこと言い出した」


藤村 「餅なんてそもそも味がないんだから。カビて初めて味変が楽しめる」


吉川 「味変のためにカビさせるの? 身体に悪そうだけど」


藤村 「餅ばっかりだと栄養が偏る。カビたことで緑黄色野菜が摂れる仕組み」


吉川 「カビて緑になっても緑黄色野菜にはならないよ? 葉緑素が増えてるわけじゃないから」


藤村 「あと旧初詣。これは日本の神道とかそう言うのが生まれる前の原初信仰を詣でる。なんかやたらデカい岩とか、デカい木とか」


吉川 「説明もだんだん雑になってきたな。それやって楽しいか?」


藤村 「楽しいに決まってるじゃん! 原初信仰はもう人間の本能を開放する祭だから。火を炊いて酒を飲んでセックスしてすべてが許される催しだよ」


吉川 「現代では絶対にそぐわないやつだろ」


藤村 「とにかく無軌道だからね。多少人が死んでもしょうがないで済ませられる」


吉川 「旧人類の価値観についていけない。現代の文化に浸かりすぎてしまったようだ」


藤村 「もちろんエスカレートすると暴動になるから旧警察がでてくる」


吉川 「旧警察は嫌な感じだなぁ」


藤村 「もう憲兵だからね。人権とか何も尊重しない。暴力もすぐ振るってくる。このぶつかり合いこそ旧正月の醍醐味と言える」


吉川 「その醍醐味はできればフィクションの中でしか見たくない」


藤村 「ただ好き放題やって暴れる集団と厳しい統制のとられた警察組織とでは勝負は目に見えてるけどね」


吉川 「やっぱり旧警察は厳しいのか」


藤村 「なにせトップが違う。旧警察は署長に対する忠誠心や士気が全然違うから」


吉川 「どんなやつがトップなんだ」


藤村 「主にアイドルなんかがやってる」


吉川 「1日警察署長なの?」



暗転

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