証言

吉川 「あなたの証言が犯人逮捕の重要な手がかりとなります。まだ事件からまもなく混乱されてるとは思いますができる限り思い出せることをお願いします」


藤村 「は、はい。でも正直、記憶の方に自信がなくて」


吉川 「曖昧な状態でも結構です。覚えていることを何でも」


藤村 「そう言われても、お昼に食べたカップそばがどん兵衛かマルちゃんかも思い出せなくて」


吉川 「大丈夫です。それは大体の人が思い出せませんから。マルちゃんの緑のたぬき食べながら『どん兵衛ってたまに食べると美味しいよねー』って言ってる人よく見ます。指摘するとウザがられるやつ」


藤村 「あと急いでいたのでちゃんと目撃したわけじゃなくて。実は私、マナカナの区別もつかないくらい人の顔を覚えるのが苦手で」


吉川 「大丈夫ですよ。相当人の顔覚えるのが得意な人でもマナカナの区別ってつかないと思いますから」


藤村 「しっかり者の方がマナさんでしたっけ?」


吉川 「いえ、知らないです。区別をつけようかなと思った事自体ないので」


藤村 「どっちだったっけなぁ?」


吉川 「今はマナカナの区別より、事件時に見たことを優先してくれませんか?」


藤村 「あ、そうですね。でも私、思い込みも強いタイプなのでウルトラマンとにせウルトラマンもどっちがどっちかわからなくなるくらいなんです」


吉川 「あれをわからない? ザラブ星人が変身したにせウルトラマンが? 明らかにツリ目なのに?」


藤村 「まさかウルトラマンに偽物がいると思わなかったから」


吉川 「あぁ。そういった思い込みがあるのはしかたありません。とりあえずどう感じたかというより見たままのことを教えていただければ結構です」


藤村 「見たままって言われるのが一番難しくて。ほら、気をつけてるんですよ。今って見たままデブとかハゲとかいうと怒られるじゃないですか? 時代の先を行った気になってる小煩いやつらに」


吉川 「そうですね、難しい時代だとは思いますけど、今この場ではそういったものも自由に発言していただいて結構です」


藤村 「刑事さん、仕事できなそうなツラしてますね」


吉川 「……言っていいとは言いましたが、言わなくてもいいことは言わなくて結構です」


藤村 「すみません。言っていいなら言ったほうが得な気がして」


吉川 「ただ、その調子で覚えてることを予断を交えずに教えてください」


藤村 「あの被害者の女、すごいそそる感じだったじゃないですか。なんていうかちょいブスで。絶妙なブス加減で、美人よりもちょいブスの方がヤれそうな感じがする分だけそそる感じ、わかります?」


吉川 「被害者の方に対するものは結構です。こちらでも十分調べましたから」


藤村 「もう見てたらチンポギンギンになっちゃって」


吉川 「あなたがどう思ったかは今の時点では結構ですので。どういうものを見たかだけで」


藤村 「で、その女が鍵か何かを落として拾おうとしたんですね。もう屈んだ時のタイトスカートがパンパンの感じわかります? ただ本来ならパンツのラインが出るはずなのに何も出なかったんですよ。ということはTバックだったに違いありません」


吉川 「それはわかりました。えーと、そのとき周りに他の人は?」


藤村 「いました。もしいなかったら、むしゃぶりついてましたから」


吉川 「叩けば余罪がでてきそうだな。周りにはどんな人が?」


藤村 「男の人だったと思います」


吉川 「どんな男の人でしたか?」


藤村 「どんな? 男に対してどうとかこうとかあります? 生きてる男でした」


吉川 「男女で解像度の落差がひどいな。生きてるか死んでるか以外の特徴を男に対して見出してないの?」


藤村 「邪魔だなぁ、ぶっ殺してやろうかなって思ったので生きてたのは間違いありません」


吉川 「殺意あり。あなたの方がどちらかというと危険だな」


藤村 「そうだ。写真があります」


吉川 「本当ですか? 見せてください!」


藤村 「これです。ほら、全然パンツのラインが出てないでしょ?」


吉川 「盗撮の現行犯」



暗転

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