アリバイ

吉川 「頼みがあるんだ」


藤村 「他ならぬお前の頼みなら聞いてやりたいな」


吉川 「ありがたい。もし誰かから一昨日の夜のことを聞かれたら一緒にいたと言って欲しいんだ」


藤村 「つまり、アリバイか?」


吉川 「お前に害は及ばない。犯罪とかじゃないんだ。俺を信じてくれないか?」


藤村 「わかった。ちょうど一昨日はハッパキメて乱交パーティしてたから、その中にお前もいたということにするよ」


吉川 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと。何やってんの?」


藤村 「大丈夫、他のメンツもほぼ記憶がないからなんとかなる」


吉川 「なんとかしないで! なんでそんなことしてるの?」


藤村 「なんでって、2の付く日だったから」


吉川 「2の付く日ごとにやってるの? そんなデビルマンに出てくるサバトみたいなことを?」


藤村 「だってさすがに毎日はきついでしょ」


吉川 「できれば毎日みたいな思いありきなの? そんな一度でもあったら人生変わりそうなイベントが」


藤村 「安心しろ。お前はそこにいた。もうそういうことになったから」


吉川 「やっぱりやめてもらえる? そっちに参加してる方が問題が大きい」


藤村 「遠慮するな。絶対にバラさない。なんならお前がラリってしでかしたエピソードも語ってやるから」


吉川 「そんなこと言わないで。大丈夫。もう大丈夫になった。一昨日のことは忘れて」


藤村 「水臭いぞ。一緒にハッパやった仲じゃないか、兄弟!」


吉川 「やってないよ。そこには参加してない」


藤村 「そう言い張られたとしても、俺は裏切らないから。お前は一緒にいたって必ず証言する」


吉川 「いなかったんだよ。もういいんだよ、その嘘のアリバイは」


藤村 「どうせお前の方もなんかやらかしちゃったんだろ? 一緒だよ一緒。こうなったら一蓮托生だから」


吉川 「巻き込まないでよ。そっちの一蓮に引きずり込まないで。俺は別に罪を犯したわけじゃないから」


藤村 「いいか? この世のあらゆる行いはバレなきゃ罪じゃないんだよ」


吉川 「真顔でそんなこと語るやつの思想をすんなり飲み込めないよ! 一昨日の夜のことはこっちでなんとかするから」


藤村 「だったら俺もそっちにいたことにしてもらおうかな」


吉川 「どういうこと? お前のアリバイが俺の方にくっついてきたの?」


藤村 「いや、もしバレたらの話。バレなかったらいいけど、バレたとしたらやっぱり恥ずかしいし」


吉川 「恥ずかしいとかの問題じゃないけどな。歴とした犯罪なわけだから」


藤村 「だから保険としてね。一緒にいてハッパしてたってことにすりゃ」


吉川 「やってないんだよ、ハッパは。百歩譲って一緒にいたとしてもハッパを持ち込まないでよ」


藤村 「ハッパもやらずに何してたってことにならない?」


吉川 「ならないよ? 人間にはハッパをやってない時間もあるんだよ? むしろほとんどの人間はその時間で人生を終えるんだから」


藤村 「で、一昨日の夜は一緒に何してたんだっけ?」


吉川 「い、いや。そういうのはほら。プライベートな事だから」


藤村 「一緒にいたんだろ? 一緒にいたのに別々にプライベートな時間を過ごしてるなんて熟年夫婦じゃないんだから」


吉川 「それが言えないからアリバイを頼んでたんだろ!」


藤村 「そっか。わかった。それなら追求するのも悪いな。これまでの反応からして乱交パーティではないってこと?」


吉川 「そりゃそうだよ。しないだろ、普通。お前はわからないかもしれないけど」


藤村 「わかった。誰に聞かれてもそう証言することにするよ。これで一安心だな」


吉川 「あんまり安心できる気がしないんだけど。ちなみに一昨日の夜何してた?」


藤村 「一昨日の夜? 吉川と一緒にハッパもやらずに乱交パーティ以外のことをしてたよ?」


吉川 「もう縁を切ってくれ」



暗転

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