あのお方

藤村 「我々などあのお方の手足にすぎない」


吉川 「あのお方? そんな黒幕がいるのか!」


藤村 「フッフッフ。あのお方は貴様ら一般人とはスケールが違うのだ」


吉川 「そんなやつがまだいただなんて」


藤村 「先日などあのお方はマックの株主優待でセットを奢ってくれた」


吉川 「マックの株主なの? あのお方が? それ聞くと逆にスケール小さく思えちゃうな」


藤村 「何を言う! あのお方のスプラトゥーンでのウデマエはA+だぞ」


吉川 「Sにもなってないんだ。A+で割と自慢気に」


藤村 「お前にあのお方の素晴らしさなどわかるまい。あのお方は冬場でも面倒くさがらずに毎日お風呂に入るのだぞ」


吉川 「全体的にレベルが低いな。それを褒め称えてる人たちも」


藤村 「あのお方は高校時代に模試で全国3位になったことがあるらしい」


吉川 「あのお方いくつなの? 高校時代の模試の栄光を何年も引きずり続けるの良くないよ? 未来に目を向けようよ」


藤村 「さらにTシャツを一瞬で畳む裏技もできる」


吉川 「割とメジャーなライフハックも。尊敬に値する要素が今のところ一つも出てきてない」


藤村 「じゃあ何だったらすごいと思うんだよ?」


吉川 「逆にこっちに聞いてきた? そう言われても『あのお方』に相当するような具体的な人は知らないし」


藤村 「言っておくけど、あんたの上司とかより全然すごいからな?」


吉川 「うん、別に上司もすごいと思ってないからね。たまたま立場上そうなってるだけで。優れてると思ったことは一度もない」


藤村 「そうなの? それでいいの?」


吉川 「忠誠心は人それぞれだからね。会社なんてあくまで人生の一部分だし」


藤村 「それなら俺も別にあのお方のLINE既読無視してもいいのかな?」


吉川 「ちょっぴり煩わしく思ってるんじゃん。あのお方に対して」


藤村 「たまにだよ? 基本的にあのお方と思ってるけど、朝の5時とかにLINE来ても困るでしょ」


吉川 「あのお方、あんまり配慮がないんだ。それはしょうがないよ、人間だもの」


藤村 「あと言ってることがその都度変わるしさ。自分からやっておいてって頼んだくせに聞いてないぞとか言ってくるし」


吉川 「理不尽なパターンだ」


藤村 「なにやっても文句をつけるんだよ。結局文句つけたいだけだから別の案を予め用意しておくと『俺を試したのか?』みたいな因縁つけてくるし」


吉川 「それはよくない。あのお方ってのはそれじゃ務まらないんだよ」


藤村 「はじめは尊敬する部分もあったけどさぁ。結局あのお方の功績になってるのは俺たちが成し遂げたことなんだから」


吉川 「本当にそうだと思う。あのお方を悪く言うつもりはないけど、結局頑張ってるのは現場の人たちだから。あなたがすごいわけだから」


藤村 「いや、さすがにそこまでは言わないけど。でもまぁ、自分なりに色々と工夫してやってるからね」


吉川 「それってあのお方はちゃんと評価してるの?」


藤村 「う~ん、基本的に数字しか見ない人だから」


吉川 「それちゃんと言った方がいいよ」


藤村 「でもそんな言えるような関係性じゃないんで」


吉川 「関係性とかの問題じゃないよ。あなたにはそれだけの権利があるから」


藤村 「この私に?」


吉川 「お、いいじゃん! この私! あのお方と遜色ないよ」


藤村 「え、この私? いけます? この私で」


吉川 「この私なら大丈夫だよ! あのお方も話聞かざるをえない」


藤村 「わかった。じゃあちょっと話してみる。なんか自信持ったわ。ありがとう、そこのキミ!」


吉川 「通りすがりっぽく言うなよ」



暗転



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