アルファベット

藤村 「一番気持ちいいアルファベットってなんだと思う?」


吉川 「日本語のはずなのに意味が一切わからない問いだな」


藤村 「だから、アルファベットで一番気持ちいいやつはどれ?」


吉川 「語順が変わっただけでわからなさは何一つ変わってない」


藤村 「アルファベットはわかる?」


吉川 「アルファベットはわかるよ。え? 俺の考えてるアルファベットと違うのかな? なんかベッドの商品名とか?」


藤村 「違うよ! ABCとかのアルファベット」


吉川 「俺の考えてるアルファベットだった。でもそれに気持ちよさはない」


藤村 「俺はMだと思うんだよ」


吉川 「気持ちよさの定義がまったくわからないまま話が進んじゃったけど、理由はあるんだよね? なんとなく見えてきた気がするけど」


藤村 「やっぱり切れ込みだよね」


吉川 「見えてたと思ってた理由は全く違ってたな。余計に見えなくなって五里霧中だ。切れ込みってなに?」


藤村 「上から入れるじゃん? するとやっぱり切れ込みが包み込んでくれる形になるから」


吉川 「形状の話? アルファベットの形状で、何をどうするかはわからないけど気持ちよさそうなものはどれって話?」


藤村 「初めからそう言ってるんだけど」


吉川 「初めからそう言ってたとしたら、人懐こい犬よりコミュニケーションが下手だな」


藤村 「やっぱMだと思うんだよね」


吉川 「それをいうならWでも良くない?」


藤村 「どういうこと?」


吉川 「どういうことかわからないの? MはわかってWはわからないことがある?」


藤村 「だってWは体勢的に無理だろ」


吉川 「なんだよ、体勢って。こう上手いことひっくり返せばいいじゃん」


藤村 「ひっくり返す? そんな訳のわからないことを言うんじゃないよ」


吉川 「俺の言ってることが訳わからなかった? お前は訳のわかることを言ってる自覚があるということか」


藤村 「だってひっくり返したら違う文字になるだろ? それこそWはMになるじゃん。WとMを同じアルファベットだと認識してるの? ZとNは同じ文字?」


吉川 「すごいメチャクチャなこと言ってるのに、そこは厳密な」


藤村 「アルファベットって言っただろ。アルファベットなんだから一般的なアルファベットの制約を受けるに決まってるじゃん」


吉川 「もう会話の世界観が初めて過ぎてなにが決まってて何が決まってないのかわからないんだよ」


藤村 「でも俺、Mって言ったけどさ。実はこれ恥ずかしいからちょっと手心加えたんだよね」


吉川 「恥ずかしいとかいう感情があるの? この話題に。もうなにもわからないよ」


藤村 「本当に良いのは小文字のm。これはもう最高だよね」


吉川 「どこが最高なのか伺っていい?」


藤村 「だって密着感が違うでしょ。上からの切れ込み。あれってただ単に切れ目が付いてるのかなーと思うんだけど、実際に入れてみると奥までちゃんと切れ込みが入ってるんだよね。奥までズブブブって入れた時のフィット感? 最高だよ」


吉川 「よくわからないんだけど、それってBじゃダメなの?」


藤村 「あ、わかってきたじゃん。でも実際にやってみるとさ、Bってちょっと体勢が厳しいし上の膨らみが下の膨らみより小さいというフォントによる個体差みたいのがあって案外バランスが悪いんだよ」


吉川 「実際に何をどうやってるのか気持ち悪そうで具体的に知りたくないな」


藤村 「実際にお前もm使ってみたらわかるから。全然違う」


吉川 「わかるようでやっぱりわからないんだけど、Cとかはダメなの?」


藤村 「全然ダメに決まってる。根本だけだよ」


吉川 「根本だけ? 根本だけが何?」


藤村 「接触するの根本だけで中は空洞だもん。まるで素人だよ」


吉川 「何の素人なんだ。じゃUもダメか」


藤村 「いや、Uはサイズによっては意外といける。人によってはUが一番って意見も全然あると思うよ」


吉川 「わかりかけてるのか、俺。だったらさ、Oを上からってのは?」


藤村 「どういう意味? 上からって」


吉川 「だからOを三次元的に見て、こう真上から入れてみたらさ」


藤村 「三次元的に見たアルファベットをお前は日常で使うのかよ! ルールをちゃんと守れよ!」


吉川 「こんな話なのにルールに準じる方がおかしいだろ。だいたい何なんだよ! 入れて気持ちいいとか気持ちよくないとか!」


藤村 「だからアルファベットにアレを入れてさ……」


吉川 「やっぱりエッチな話かよ!」


藤村 「いや、Hはそんなでもないよ?」



暗転

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