受験

吉川 「神様、どうか試験上手くいきますように!」


悪魔 「してやろうか?」


吉川 「え? なに? 誰?」


悪魔 「受験の悪魔だよ」


吉川 「え? 受験の神様じゃなくて? 悪魔が来たの?」


悪魔 「受付窓口は一緒だから。曜日によって違うだけで」


吉川 「そういう形になってたの? まずいなぁ、悪魔か」


悪魔 「ちなみに神の方は気まぐれだから。叶えないときもある。悪魔は必ず叶える」


吉川 「受験の合格っていうのも?」


悪魔 「いいよいいよ。なに? 受かればいいの?」


吉川 「はい!」


悪魔 「OK! これでもう受かるから。なにやっても受かる。当日受験票忘れても受かるよ」


吉川 「軽い! え、そんなので受かるんですか?」


悪魔 「一応受験の悪魔だから。そのくらいは余裕だよ」


吉川 「ありがとうございます! ちなみに代償とかっていうのは」


悪魔 「多少はあるよ。でもお前個人からもらうわけじゃないから」


吉川 「あ、そうなんですか?」


悪魔 「ただ戦争起きるだけ」


吉川 「戦争? 戦争ってなんですか? 受験戦争的な?」


悪魔 「いや、アジア情勢もセンシティブだからね」


吉川 「え? 本当の戦争?」


悪魔 「そう。でも受験は受かるから」


吉川 「ちょっと代償が大きすぎませんか?」


悪魔 「そんなことないよ。お前が受かるなんて世界危機レベルだよ」


吉川 「あ、そんなだったんですか? もっとボーダーラインかと思ってたんですが」


悪魔 「そういうの叶えるの一番難しいから。もうバランスぐっちゃぐちゃになるんで」


吉川 「戦争以外でどうにかなりませんかね?」


悪魔 「人類絶滅の方が?」


吉川 「いや、ダメです。絶滅はダメです」


悪魔 「ちょっとじゃあ厳しいな」


吉川 「ボクが受験を諦めたら戻ります?」


悪魔 「戻るけど、落ちるよ?」


吉川 「戦争……。激しいですか?」


悪魔 「激しいやつだね。ほぼ死ぬね」


吉川 「ほぼ死ぬかぁ」


悪魔 「なに? ほぼ死ななければ、自分の受験で通そうと思ってた?」


吉川 「いや、あの。そういうわけじゃないんですけど」


悪魔 「ビックリした。まさかね、戦争と引き換えにね。普通はほら、やっぱり取り消したいってみんな言ってくるんだけど、それを手練手管で俺が取り消させない交渉をするわけ。お前はちょっと自発的に話進めようとしてたな?」


吉川 「まぁ、小さめだったら考えるかなとは思いました」


悪魔 「思っちゃったんだ。ほんの少しでも。すげぇな。ちなみに戦争起きてもキミは無傷っぽいよ」


吉川 「ま、そりゃそうでしょ。そのくらいやってもらわないと」


悪魔 「全然ありがたがってくれないじゃん。なに? やっぱり願いをやめようとかいう葛藤はないの?」


吉川 「じゃあ聞きますけど、ボクが落ちたら、絶対に戦争は起きない?」


悪魔 「当面はね。まぁ、そりゃいつかはどこかで起きるよ? でもまぁ当面は落ち着いてるかな」


吉川 「あー、結局どこかでは起きるんですね。人類って愚かだから」


悪魔 「当面は起きないけどね」


吉川 「でも結局は起きるわけですよね。そもそもその戦争も根本で言えば愚かな人類のせいで起きるのであって今回ボクが受かるとか落ちるとかってのはきっかけにすぎないわけですよね?」


悪魔 「そうだけど、きっかけはお前だよ? 人類全てに背負わせようとしてるけど。ちゃんと自分の責任ってのもわかってる?」


吉川 「でも早かれ遅かれ起きるわけであって。だったら早いほうがいいって意見もありますよね。料理で好きなやつを先に食べるか後に食べるかみたいなもんで」


悪魔 「戦争をショートケーキの苺みたいな感じにとらえてる? 戦争は起きないほうがいいよね」


吉川 「でも科学ってのは戦争で伸びる歴史もありますし」


悪魔 「肯定する方向で来てる? 言っちゃ悪いけどそれは俺側セリフだよ。普通人間ってのは葛藤するから。もう全体重こっち側にあずけてきたな」


吉川 「どっちなんですか? 戦争起こしたくないんですか?」


悪魔 「俺はどっちでもいいんだよ。人間が堕ちるところが見たいだけなんだから」


吉川 「でもせっかくなら花火はデカい方がいいんじゃないですか?」


悪魔 「逆に堕ちてる感がなくて俺としては物足りないんだよ! そんな真っ直ぐな目で望みを叶えられたら。受験も受かるわけだし」


吉川 「あ、そうか。受験もあった。ラッキー」


悪魔 「二の次!」



暗転

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