風呂

博士 「吉川くん、空前絶後の大発明じゃ!」


吉川 「どうせまたしょうもないものじゃないんですか?」


博士 「吉川くん、冬場にお風呂に入るのは面倒くさいよな?」


吉川 「いえ? お風呂好きなんで」


博士 「そんなわけあるかっ!」


吉川 「いや、あるでしょ。何を決めつけてるんですか。お風呂を一日のリラックスタイムとして楽しみにしてる人は多いですよ」


博士 「はぁ……。非常識すぎて話にならない」


吉川 「話になってよ。その前提の方が無理矢理過ぎるんだから」


博士 「まぁ、吉川くんは人と違う方違う方へと行きたがる逆張り人間だからな。呪術廻戦はHUNTER×HUNTERのジェネリック版とか、PS5買ってもやるゲームないって言ってたし、そういうところで個性を出そうと足掻いてるネット世代が生んだ忌み子みたいなものだし」


吉川 「すごい嫌な言い方しますね。いいですよ、わかりましたよ。お風呂が面倒、でなんです?」


博士 「ただお風呂に毎日入らなくても、顔と股間さえ洗っておけば日常生活は何の問題もないわけじゃ」


吉川 「そんなことないでしょ。不潔極まりない」


博士 「もう! また逆張り!」


吉川 「違うでしょ。顔と股間だけきれいなら大丈夫なんて説は初めて聞きましたよ」


博士 「じゃあどうやったら清潔だと言えるわけ?」


吉川 「普通にお風呂に入って全身洗えばいいじゃないですか」


博士 「無茶を言うなよ! すべての人類が思いやりを持ち、分け与えて生きれば争いは起きないみたいな机上の空論を言うな!」


吉川 「お風呂に入るのって世界平和の実現と同じレベルの不可能案件なの? それ全員が思ってること?」


博士 「いちいち反発されたら話が進まないんじゃよ。お風呂に入るのは面倒くさいし入らないに越したことない。そんなのは原始人の頃から変わってない。人間が唯一つ抱えるジレンマじゃ!」


吉川 「もっといっぱい抱えてるでしょ。人類の可能性が狭すぎる」


博士 「そして顔と股間さえ洗えば人間性を損なわないレベルの清潔さは保てるというのはもう科学的事実なんじゃ!」


吉川 「わかりました。一応それは仮説として飲み込みます」


博士 「しかしこれを実行するに当たり一つ問題が生じていて、股間を洗うにはほぼ全裸にならなければならず、全裸になるのはお風呂に入るのと同様のコストがかかるということじゃ」


吉川 「バカな理屈を捏ねくり回してるな。結局じゃあお風呂に入ればいいじゃないですか」


博士 「それを解消するための新発明が、この全自動股間だけ洗い機じゃ!」


吉川 「お風呂に入ればいいじゃないですか!」


博士 「この旧人類! もうあらゆる時代の旧人類が同じことを言っていた。馬車に乗ればいいじゃないですか、そろばん使えばいいじゃないですか、ラジオ聞けばいいじゃないですか、もう時代遅れの人間は全部そう。恥ずかしい。100年後の人類に合わせる顔がない」


吉川 「どうせ100年後生きてないですよ」


博士 「いいからこれをつけてみたまえ」


吉川 「嫌です。ボクはお風呂に入るから必要ないです」


博士 「そんなやついるか! お風呂なんて普通は入らないんだよ!」


吉川 「なんでそこまで極端な偏見を断言できるんですか」


博士 「いいからほら。痛いのは最初だけだから」


吉川 「痛いんですか? 最悪じゃないですか。絶対に嫌です」


博士 「科学の発展のためじゃ。色も可愛いし」


吉川 「色が可愛いからつけてみようかなってならないでしょ。股間にこんなものつけたくない!」


博士 「実はこの全自動股間だけ洗い機の前バージョンは下半身全部を洗うタイプだったのじゃ。でもそれだとズボンが履けないしドムっぽい足になっちゃうから頑張って小型軽量化したのじゃ」


吉川 「頑張りをする方向がとっちらかってる。これつけてズボン履いたら妙にもっこりしちゃうじゃないですか」


博士 「妙にもっこりして清潔な方が妙にもっこりしてなくて不潔よりいいじゃろ?」


吉川 「妙にもっこりしてなくて清潔なのが一番ですよ」


博士 「それは理論上不可能だから」


吉川 「可能ですよ。風呂に入れっての! もうこんなバカな研究には付き合ってられませんよ。やめさせてもらいます」


博士 「待つんじゃ。だったらこの全バージョンの全自動下半身全部洗い機を使いなさい」


吉川 「なんでだよ、そういうのをつけたくないからやめるんだ!」


博士 「足も洗える」



暗転

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