捜査

吉川 「おい、待てよ。不法侵入は犯罪だぞ」


藤村 「そんなことはわかってるんだよ。お前は真実を知りたくないのか?」


吉川 「そりゃ知りたいけど、だからと言ってこれはやりすぎだ」


藤村 「怖気づいたか? ならいい、ここからは俺一人で行く」


吉川 「待てって。まったくしょうがないな。わかった。でももし何もなかったらすぐに出ていくぞ」


藤村 「お前ってなんだかんだ言って付き合いいよな」


吉川 「好きでやってるわけじゃねーよ、バカ!」


藤村 「あれ? これ鍵がかかってるな。……ダメだ。諦めよう」


吉川 「諦め早し! まじかよ。ものすごい強引な感じで俺を引き入れたのにもう諦め? 窓があるでしょうが!」


藤村 「窓? どうするの? 窓も鍵が掛かってる。打つ手なしだ」


吉川 「割ればいいだろ。そんな弱気なのに行こうとする決意だけ強かったのどういうこと?」


藤村 「割ったら住んでる人困らない?」


吉川 「困るだろうよ。でも真実のためにそういうのを全部投げ捨てて探ろうとしてたんじゃないの? 不法侵入にはあんなに乗り気だったのに」


藤村 「不法侵入はさ、入って調べて出ていくだけだから、あんまり迷惑かからないし、器物破損とは別物でしょ。もしお前が住人で家帰ってきた時、窓割れてたらどうする? テンションダダ下がりだよ?」


吉川 「そうだけどさ。不法侵入だってまあまあ気持ち悪いだろ。知らない間に誰かが入ってたら」


藤村 「気持ち悪いは気持ち悪いけど、気持ちは切り替えられるだろ。窓割れは物理だもん。切り替えても直らないし隙間風入ってくるし。最悪だよ」


吉川 「窓が割られることへの共感が思いの外強いな。俺のこの盛り上がった決意のやり場がないよ」


藤村 「しょうがない。奥の手だ。こいつでいくしかないか」


吉川 「あ、ヘアピン? ひょっとして……」


藤村 「最近忙しくて髪切る暇なくてね」


吉川 「ヘアピンをヘアピンとして使ったな。全く意外性のない。ヘアピンで鍵をどうこうするとかじゃないんだ」


藤村 「あれってどうやるの? どういうシステムであれができるのかまったくわからないんだけど」


吉川 「鍵穴でなんかやるテクニックがあるんだろ。俺はできないから窓を割るくらいしか思いつかないよ」


藤村 「やっぱテクかぁ。テクさえあれば真実がわかるのに!」


吉川 「鍵開けられたからと言って全部わかるわけじゃないけどな。だったら窓を割るよ」


藤村 「鍵を開けるテクよりも真実がすべてわかるテクの方が必要だな」


吉川 「そんなすべてのことを解決できるテクニックはないよ。窓を割れば入れるぞ」


藤村 「ひょっとしてお前、窓を割るテクをお持ちか?」


吉川 「窓を割るのにテクはいらないんだよ! 窓を割るのは意志のみ!」


藤村 「なんか名言っぽいこと言ったな。窓を割るのは意志のみ。お前の墓標に刻んでやろう」


吉川 「嫌だよ。生前どんな生き方をしてきたんだ。どうするんだ? 諦めるか、窓を割って入るか」


藤村 「まったくしょうがないな。お前がそこまで言うなら付き合ってやるか」


吉川 「別に窓割りに付き合ってもらいたいと望んだことはねーよ。中に入りたいんだろ?」


藤村 「俺は真実が知りたい!」


吉川 「だったらもう割るしかないだろ、いくぞ?」


藤村 「やってくれ!」


吉川 「よし、開いたぞ」


藤村 「見ろ! こっちにも窓があるぞ」


吉川 「窓を割りたい人間じゃないんだよ! 早く探せよ」


藤村 「そんなこと言ってもあっちの窓が気になって。お前はもう割ったからいいけど、俺は一枚も割ってないから」


藤村 「窓割りたさが主眼になっちゃってる。真実はどうなったんだよ」


吉川 「バカ野郎! 時には真実よりも大事なものがあるだろ!?」


藤村 「ヒューマニズム刑事みたいなこと言ってるんじゃないよ。お前は窓割りたいだけだろ」


吉川 「あと、あのいけ好かないちょっと高そうなオブジェもぶっ壊したい」


藤村 「オマケで連チャンしていいシステムじゃないんだよ!」



暗転

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