意外

吉川 「新春かくし芸大会! それでは藤村さん、今回は何を披露していただけるのでしょうか?」


藤村 「けん玉の意外と難しい技をやります」


吉川 「なるほど! けん玉の難易度の高い技を披露してくれるということで、早速お願いします!」


藤村 「ではいきます。はいっ!」


吉川 「……終わりですか?」


藤村 「終わりです」


吉川 「あ、割とシンプルな。これが難易度の高い技ですか?」


藤村 「これが意外と難しい技です」


吉川 「意外と」


藤村 「そうです。意外と難しいんです。簡単そうに見えるんですけど、これが意外と」


吉川 「そうですか。意外と難しいんですね。ちょっと見てる方に伝わったかどうかはわかりませんが、意外と難しいそうです」


藤村 「かなり意外とです」


吉川 「続いては何を?」


藤村 「はい。この意外と固いジャムの蓋を開けます」


吉川 「ジャムの蓋を? 開ける? だけ?」


藤村 「意外と固いんです」


吉川 「意外と。そうですか。ではお願いします」


藤村 「いきます。はいっ!」


吉川 「開きましたね。普通に開けた感じですけど」


藤村 「意外と固かったー」


吉川 「そうですか。意外と固かったそうです」


藤村 「続いて、意外と弾まないこのボールをですね……」


吉川 「あの、すみません。藤村さん」


藤村 「はい?」


吉川 「意外じゃないやつありません?」


藤村 「意外じゃない方がいいんですか? かくし芸にならないと思いますけど。では意外じゃないラジオ体操を……」


吉川 「いえ、それは本当に意外じゃなくて見所もないんで、意外じゃなくて凄いものを見せてもらいたいんですけど」


藤村 「おかしなことを言いますね。凄さっていうのはある意味意外性のことですよ?」


吉川 「そうなんですけど、さっきの意外と固い蓋とか、見てる方には意外性が全然なくて」


藤村 「本当に意外と固かったんです。固くなさそうだったでしょ? そこに意外性があって、意外と固かったんです」


吉川 「それはあなただけの意外で、見てる方にあんまり意外性が伝わってこなかったんで」


藤村 「本当に意外と固かったんですよ? 私がでまかせを言ってるとでも?」


吉川 「嘘をついてるとは思ってません。でも結構簡単そうに開けてたんで意外さがなかったかなぁって」


藤村 「だから意外と固いのを私の方も意外と力を込めて開けたわけです。私の意外の方が蓋の意外に勝ったということで」


吉川 「逆に言うと負けたら意外だったかも知れません。開かなかったら『意外と固いんだな』って思ったかもしれないけど、開いちゃったら意外って思えなくて」


藤村 「でもそれじゃ意外性はあってもかくし芸として成立しませんよね? この世のほぼすべての芸は難しいことを達成する意外性で成り立ってるんじゃないですか?」


吉川 「意外と弁が立つな。ただ、例えばリフティング1000回しますと言っても、出来る人にとっては出来ることなんですよ。その人の中で意外性はない。むしろ見てる人が勝手に出来ないだろうと思い込んでるから意外性があるわけで。やる人にとっての意外性じゃなくて見る人にとっての意外性で勝負して欲しいわけです」


藤村 「難しくてなんて言ってるかよくわかりませんでした」


吉川 「意外とバカだな。だから見てる人にとって明らかに無理だろと最初に思わせて欲しいんです」


藤村 「ではこのセンブリ茶を一気飲みします」


吉川 「まぁ今までのに比べたらまだかくし芸っぽさはある。固い蓋に比べれば」


藤村 「いきます。はいっ!」


吉川 「飲み干しました。どうですか?」


藤村 「イガイガする」


吉川 「意外性ないなー」



暗転

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