オノマトペ

吉川 「我々は後世の日本語を愛する者たちのために美しい日本語を残していかなければなりません」


藤村 「その通りですね」


吉川 「今回は後世に残したい擬音、オノマトペを選定するということで集まっていただきました。よろしくお願いします」


藤村 「よろしくお願いします」


吉川 「それでは藤村さん。まず最初のワードですが」


藤村 「『ぬりゅ』です」


吉川 「『ぬりゅ』これはいわゆる『ぬる』とは違うものですかね?」


藤村 「全く違います。『ぬるぬる』等の『ぬる』は表面が滑りやすい粘液などによって覆われている状態、もしくはそれに接触した状態を指しますね」


吉川 「はい。『ぬる』はそうですね」


藤村 「『ぬりゅ』は筒状、もしくは袋状になった表面が滑りやすい粘液などによって覆われているところに接触した状態です」


吉川 「それは『ぬる』では代替できませんか?」


藤村 「『ぬる』と『ぬりゅ』ではまったくいやらしさが違います」


吉川 「い、いやらしさ?」


藤村 「いえ。癒やしです。癒やし効果がより大きい」


吉川 「癒やし効果ありますか? 『ぬりゅ』に」


藤村 「やはり『ぬりゅ』は『ぬりゅ』でなければ」


吉川 「わかりました。とりあえず保留としましょう。続いては?」


藤村 「『ぬりゅっぷ』です」


吉川 「『ぬりゅ』でいいじゃないですか。なんですか『ぬりゅっぷ』って」


藤村 「『ぬりゅっぷ』は袋状になった湿ったものから物体が出た瞬間に内部の圧力が強くなって空気が入り込む時の擬音です」


吉川 「その状況って日常であります?」


藤村 「ありまくります。マンガなどで目にしない日はありません」


吉川 「そうなんですか。見たことないですけど。あるんですね。後ほど出典などを確認して検討するとして、一応『ぬりゅっぷ』は保留にしておきましょう。そして次は……」


藤村 「『パッスン』です」


吉川 「『パッスン』布団を叩いた時の擬音ですかね?」


藤村 「近いですが『パッスン』は乾いた柔らかい物質がぶつかり合う時の擬音ですね」


吉川 「状況としては想像がつくんですが『ぺっちん』とは違いますか?」


藤村 「『ぺっちん』より比較的表面積の大きい物体で離れる瞬間に負圧が生まれて空気が流動する感じを表現しています」


吉川 「つまり『パッスン』は『パッスン』以外では表現できない擬音ということですか?」


藤村 「そうですね。連続した場合に簡易的な表記だと稀に『パコパコ』などと記される場合もありますが、やはり忠実に表現するなら『パッスン』だと思います」


吉川 「『パコパコ』にも変様するというのは不思議ですね。後ほど出典などを確認したいと思います。一旦『パッスン』は保留とさせてもらって、続いての『ぎゅむ』ですが」


藤村 「『ぎゅむ』は主に腕などで強く身体を押し付ける、圧迫する時の擬音ですね」


吉川 「それは『ぎゅー』とは違うんですか?」


藤村 「全然違いますね。『ぎゅー』は同じ状態でも物理的ものを表現する擬音。『ぎゅむ』は精神的なものを表現する擬音です」


吉川 「精神的な、それは具体的に言うとどういう?」


藤村 「愛情です」


吉川 「なるほど。『ぎゅー』と『ぎゅむ』。感情表現が入ってくるというのはまた別の問題になりますね。今回は保留としましょう。続いては『オリンポス』ですけど、これは地名ですよね? 山の名前。オリンポス山」


藤村 「『オリンポス』は適度な高さから小さい金属性のものが落ちてちょうどいいサイズの入れ物に収まった時の擬音ですね」


吉川 「適度とかちょうどいいとか、状況が曖昧すぎませんか?」


藤村 「だいたい60cm~2mまでの高さから落ち、その物体の体積の1,2倍から1.6倍の箱状のものに収まったときです」


吉川 「あります? そんな状況?」


藤村 「では川上から大きな桃が流れてくる時の『どんぶらこ』はありますか? そんな状況。見たことないですよ、デカい桃なんて」


吉川 「いえ、そう言われるとそうですけど『オリンポス』以外の擬音でも表現できるんじゃないでしょうか?」


藤村 「同様の状況ですと『オリンポス』以外の擬音で表現するなら『チンポコ』になります」


吉川 「『オリンポス』でいきましょう! 『オリンポス』こそ適切な気がしてきました」


藤村 「そうですよね」


吉川 「では次は『リュック・ベッソン』ですが。これは映画監督の名前では?」


藤村 「『リュック・ベッソン』はやや粘着質な棒状の物が袋状のものから飛び出て他の物体に衝突して粘性の物質を跳ね飛ばしていきり立っている状態の擬音です」


吉川 「いや、映画監督の名前ですよね? 私はヨーロッパ・コープの最終的に暴力でなんとかする映画のファンなんですよ」


藤村 「こう、抜いた瞬間にお腹に当たってバィーンンンてなった後に『ソン……』って佇んでる状態です」


吉川 「なんですか、その状況。お腹ってなんですか。何が当たるんですか!」


藤村 「その……。オリンポスが」


吉川 「ともかく、まず監督に謝ってください」


藤村 「ぺこり」


吉川 「擬音でなく!」



暗転

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