占い

藤村 「今年の運勢はどうですかね?」


吉川 「いやぁ、どうでしょうね。色々あると思いますよ」


藤村 「そりゃ色々あるでしょ。その色々のディティールを教えて欲しいんです」


吉川 「実はね、自分を占ったところ『今年の運勢メチャクチャ聞かれるでしょう』って出ました」


藤村 「そりゃ出るよ。俺でも言える。占い師ってわかった時点でそれは確定だよ」


吉川 「わかってはいたものの、まさかこんなに聞かれるって思ってなかったから、もうなんか答え飽きちゃいましてね」


藤村 「答え飽きるってことある? だって答えは人それぞれでしょ?」


吉川 「人それぞれだけど、言い方ってのは限られてるものだから。例えば『死ぬ』ってでても『あなた死にます』とはあんまり言えないじゃない?」


藤村 「あー、そうなんだ」


吉川 「身の回りのものを整理すると良くなりますよ、みたいな言い方になっちゃう」


藤村 「上手い! それってそういうことなの?」


吉川 「全部が全部死ぬってことじゃないですけどね。離れているご友人に連絡を取ってみたら、とか」


藤村 「あー、なるほど! 確かに死ぬのわかってたらした方がいいな」


吉川 「そういうのは、生きるにしろ死ぬにしろ、した方がいいことだから」


藤村 「逆にすごく良いことが起きる時は何ていうんですか?」


吉川 「私は運勢を占う人であって言い方を教える人じゃないので」


藤村 「あ、そうですよね。すみません。好奇心の扉が開いてしまって。で、俺の今年の運勢は?」


吉川 「そうですねぇ。思い切って新しいことに挑戦してみるといいかもしれません」


藤村 「え? どういうこと!? 新しいことに挑戦!? ……ということは、死にはしないよね。いや、逆に死ぬかもしれないから最後にって意味か?」


吉川 「別にそんなに深読みしないで言葉通りに受け止めてもらえば結構ですから」


藤村 「言葉通りに受け止める!? ……ということは、何か医者から余命宣告とかされるのか? もうそこがタイムリミット?」


吉川 「生き死にに関することだけ占ってるわけじゃないですから」


藤村 「……ということは、犯罪!? 何かに巻き込まれる! いや、こっちが被害者とは限らない。やむを得ず罪を犯してしまうこともあるのか?」


吉川 「そこまで深刻に捉えられると、こっちも迂闊なことは言えなくなりますから」


藤村 「占い師が言えないほどのこと!? 知ってしまうと世界のバランスが崩れるような。まさか、地球滅亡!?」


吉川 「何言っても深読みされるな。あんまり悪く考えすぎずに、今を楽しむという気持ちでいたほうがいいと思います」


藤村 「もうジタバタしてもしょうがないってこと? 人類に出来ることなど何もないってことか」


吉川 「もう何を言ってもダメだな。あなたは人の言うことを最後まできちんと聞いたほうがいいと思います」


藤村 「最後まできちんと聞く、……ということは意識は最後まであるわけで、病気じゃないってことか。冷静に落ち着いて起こることを受け入れる。つまり巨大隕石が地球に衝突するような」


吉川 「以上です。見料は5000円になります」


藤村 「5000円、……ということは」


吉川 「いいから金払って帰れよ」



暗転

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