七草

吉川 「えーと、なずな。……はこべ菜?」


藤村 「はこべら!」


吉川 「あ、はこべら。よく知ってるね」


藤村 「七草だろ? 覚え方があるんだよ。知りたい?」


吉川 「うん」


藤村 「じゃーんじゃじゃじゃんじゃかじゃんじゃーんじゃーん♪」


吉川 「あ、歌なの?」


藤村 「それなら教えてあげよう」


吉川 「あ、歌じゃないんだ! なんだったの、今の前奏っぽいの」


藤村 「じゃーんじゃじゃじゃんじゃかじゃんじゃーんじゃーん?」


吉川 「それ。なんで急に言ったの?」


藤村 「演出だけど」


吉川 「返事をするのに演出いる? そんなパチンコみたいな豪華な返事しないでよ」


藤村 「じゃ、いきますか。YO! 苦い葉っぱの苦っぱ! ゲロッパ! セクスマシーン!」


吉川 「待って。ちょっと待って」


藤村 「なに?」


吉川 「思ってたのと大分違うノリだったから感情がついていかなくて。そんなジェームズ・ブラウンみたいな感じで覚えるの? 日本の伝統的なやつじゃないの?」


藤村 「七草粥は平安時代から食べられてたみたいだからね。伝統的よ」


吉川 「それをジェームズ・ブラウンで覚えるの? 確かにゲロッパとか50年くらい前の歌だからもう伝統芸っぽくなってるけど」


藤村 「まだこれは覚え方に入ってないから。俺の教える気持ちを高める儀式だから」


吉川 「余計な儀式が多くない? とっとと教えて欲しいんだけど」


藤村 「わかったよ。じゃ、復唱して。ロメインレタス」


吉川 「ロメ? え、待って?」


藤村 「ロメインレタス」


吉川 「ロメインレタスが入ってるの? 七草に?」


藤村 「一個目で止まらないでくれる? あと六草待ってるんだけど」


吉川 「ロメインレタスが入ってるのがどうも信用できなくて」


藤村 「それはなに? お前の勝手なイメージだろ?」


吉川 「確かに。イメージだ。入ってるのか。そこまで自信たっぷりに言うなら」


藤村 「次、もずく」


吉川 「もずく入ってる?」


藤村 「まだあと五草あるんだよ。一個ずつ確認作業はいってたら覚えられないよ?」


吉川 「そんな潮の香りがするメンバーがエントリーしてるって知らなくて」


藤村 「次、ひじき」


吉川 「ひじき!? まさかの潮の香り二人目のメンバー?」


藤村 「もういちいち止めないでくれるかな?」


吉川 「だってもっと野草っぽいメンバーで構成されてると思ってたから」


藤村 「次、茎わかめ」


吉川 「多すぎるだろ、潮の香り。七草中、三草が海の方からやってきたの? このメンバーの中でロメインレタスどんな顔しているんだよ」


藤村 「パクチー」


吉川 「パクチーいたっけな? 今までのメンバーに比べたらグッと野草っぽさがあるけど、パクチー昔からいた? そんな昔から七草にいたメンバーにしてはずっと認知度低かったな」


藤村 「めかぶ」


吉川 「もう海から来ないでよ! どうするんだよ、七草中、四草が潮の香りだよ。もうメンバー内で多数決やったら海の力でゴリ押されるからね?」


藤村 「大麻」


吉川 「嘘だろ! 大麻が入ってるわけない。そんなの現代でやったら捕まるじゃん」


藤村 「違う違う。今のは七草じゃなくて、一旦休憩して大麻吸っていいって聞いただけ」


吉川 「なぁんだ。じゃないよ! 吸うなよ。どっち道やっちゃダメだろ。やるなよ!」


藤村 「わかった。今はやらない」


吉川 「ずっとやるなよ! だいたい七草違うだろ。なずなとかはこべらとか序盤に言ってたやつ一人もエントリーしてないじゃん」


藤村 「時代によって代替わりしていくから。ロックバンドのイエスと一緒で」


吉川 「もうオリジナルメンバーが一人もいないんだよ。名前だけで魂を全然継承されてない」


藤村 「最後のメンバーの発表がまだなんだけど」


吉川 「ひょっとしているのか? オリジナルメンバーが。平安時代から魂を紡いできたやつが!」


藤村 「サニーレタス!」


吉川 「レタス二人目!」



暗転

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