通りたかったら

藤村 「ここを通りたかったら俺を倒していけ!」


吉川 「藤村……」


藤村 「考え直せ、吉川!」


吉川 「それはできない。そこをどいてくれ」


藤村 「……しかたないな」


吉川 「あっさりしてるな! あんまり止める気ないのかよ」


藤村 「親友のお前がそこまで言うなら、もう俺としては止めるすべはないよ」


吉川 「そこまでは言ってないけどね。まだ全然余力を残した言い方だったよ」


藤村 「だったら俺を倒していけ!」


吉川 「藤村!」


藤村 「あー、ダメだ。立ちくらみが」


吉川 「自主的に倒れるのアリ? まだこっちから一歩も踏み出してないんだけど」


藤村 「朝ごはん食べてこなかったから。朝6時起きで場所取りしたせいで」


吉川 「場所取りでここにいるの? 俺を止める予定ではなかったの?」


藤村 「通さないよ。通さないけど、そんなに通りたい?」


吉川 「事情によっては通してくれそうな声掛けしてくるじゃん。いや、それを言うなら通りたいけど」


藤村 「じゃ、一応俺は止めたってことを一筆書いてもらえるかな?」


吉川 「誰かに言われて止めてるの? 自分の身可愛さが前面に出すぎじゃない?」


藤村 「そんなに通りたければこの俺をスマブラで倒していけ!」


吉川 「遊びたい盛りかよ! 今は全然そう言う気分じゃない。遊び相手欲しくて止めるんじゃないよ」


藤村 「俺を倒すか、もしくは一万でいい」


吉川 「金取るの? 通行料を」


藤村 「わかった。5000でいい」


吉川 「別に値切ってるわけじゃないんだよ。なんなの? 何のために止めてるんだよ」


藤村 「もちろん、お前のことを思ってだよ! お前と週末の競馬のことを思って止めてるんだ!」


吉川 「週末の競馬のことは今思うなよ。この場面でレジャーの楽しみを挟み込むな?」


藤村 「でも絶対来るから。なんだったらお前の分も買っておこうか?」


吉川 「いいよ。それどころじゃないんだよ。俺は行かなきゃいけないんだから」


藤村 「どうしても通りたいのか? この俺が……。あ、ちょっと待って通知だ。なんだ、声優のインスタライブのお知らせだった。ま、いいや。この俺がここまで言ってるのに!」


吉川 「あんまり言ってなくない。ここまでのここがくるぶしくらいの高さだよ。そんな気が散った感じで人を説得できると思ってるの?」


藤村 「今のは違う。急に通知が来たから。俺はお前が心配だから!」


吉川 「ありがとうな、藤村」


藤村 「自分が何をやってるのかわかってるのかよ!」


吉川 「わかってるよ」


藤村 「え? 本当? 俺は自分が何やってるのかわからなくてここにいるんだけど」


吉川 「お前は俺を止めてるんだろうが! そこは把握しておけよ。その上で俺が押し通るから」


藤村 「しかたない。ここまで言ってもわからないなら、ローションぬるぬるあっちむいてホイで勝負だ!」


吉川 「なんだよ、その競技。どうせローションぬるぬるにするなら肉体接触のある競技にしろよ。あっちむいてホイでぬるぬるになってる意味ないだろ」


藤村 「どうしてもぬるぬるにはならない気か?」


吉川 「ぬるぬるにはならないよ。まったく本筋ではないもの」


藤村 「ではここは通らないということだな」


吉川 「なんで『ぬるぬる or 通らない』の選択肢しかないんだよ。お前がなんと言おうと通らせてもらうからな!」


藤村 「逆になんとも言わなければ通らないってこと?」


吉川 「そういうことじゃないよ。なんとも言わないなら無視だよ、もう。前に立ちはだかってなんとも言わない人怖いだろ。ジーッとこっち見つめてきて。心霊現象か」


藤村 「だったら通っていい。だがこれだけは忘れるな!」


吉川 「藤村……」


藤村 「えーと……」


吉川 「忘れてる! 忘れるなって言った言葉だけは忘れちゃダメだよ。もう覚える気ゼロになっちゃったもん」


藤村 「これだけは言っておく。この先、グーグルマップでは通れる感じにかいてあるけど、実際は無理だから。もう崖だから」


吉川 「親切心から止めてたの!?」



暗転


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