初夢

藤村 「これは夢だ!」


吉川 「なに?」


藤村 「これはお前の夢なんだ。もっと言うなら初夢だ」


吉川 「そうなのか。夢だと気づくことはあるけど、自分の夢を登場人物に教えてもらう経験は初めてだな」


藤村 「せっかくの初夢だから最高のものにしてもらいたいと思って。試しにツネってみ、夢だから痛くないはず」


吉川 「気を使ってくれてありがとう」


藤村 「さぁ、出せよ」


吉川 「ん? なにを?」


藤村 「なにをって、決まってるだろ。ちんちんだよ」


吉川 「どういうこと? 何が決まってるの?」


藤村 「これは夢なんだから。何をしてもOKなんだぞ? 出せばいいだろ」


吉川 「いや、出さないよ」


藤村 「なんで? 誰にも何も迷惑をかけないんだぞ?」


吉川 「だからって出さないだろ」


藤村 「もったいないだろ、せっかくの夢なのに」


吉川 「そんな、常日頃からチャンスさえあればちんちんを出したいと思って生きてないもの」


藤村 「お前ひょっとして、牢獄の中の方が外の自由より安全でいいとか考える派か?」


吉川 「むしろお前はちんちんを出せないことを牢獄に囚われてるくらいのストレスだと思って生きてるの?」


藤村 「いいか? これは夢なんだよ? 何が起こってもおかしくない。ちんちんを出そうとしてパンツを下ろしたら、そこから富士山がでてくるかもしれない」


吉川 「初夢だから? 一富士二鷹三茄子の?」


藤村 「RがなすびでSRが鷹でSSRが富士山なんだよ」


吉川 「新春お年玉ガチャみたいになってるの? 俺のちんちんが?」


藤村 「だって一富士二鷹三茄子って要するにちんちんのことだろ?」


吉川 「そんな要し方なくない? 初めて聞く学説だよ」


藤村 「じゃなかったらなすびなんて出すか? なんだよ、急に。ナスって。季節でもないのに。ジャンル違いすぎるだろ。3位はなすびです、って時点で完全に下ネタだろ」


吉川 「富士山や鷹も?」


藤村 「富士山はそびえ立つだろ? そびえ立つなんて表現他のものに使うか? 鷹なんてそのまんま加藤鷹じゃん」


吉川 「加藤鷹だったの? 鳥じゃなく加藤鷹が出てくるの? 全部そうなの?」


藤村 「全部そうだよ。一富士二鷹三茄子四ちんちん」


吉川 「待って、増えてる。四あったっけ? もう例えることもなくそのまんまがでてくるんだ」


藤村 「一富士二鷹三茄子四ちんちん五タマキンだから」


吉川 「それって一般的に言われてるやつ? それともこの夢限定のルールみたいの?」


藤村 「俺はちっちゃい頃からそう教わったけどな」


吉川 「子供相手にそう教えた人、こっ酷いバチが当たるべきじゃない?」


藤村 「だから試しに出してみればいいじゃん。何が出るかな、何が出るかな♪」


吉川 「いや、出さないよ。煽らないでよ。出すわけないじゃん」


藤村 「夢なんだよ?」


吉川 「夢だとしても嫌だよ。たとえ富士山であっても」


藤村 「富士山はそうそう出ないよ? 排出率0.03%ってwikiに書いてあった」


吉川 「なんのwikiだよ。確率の話じゃなくて、出さないって言ってるんだよ」


藤村 「初夢ってことわかってる? この機会を逃せば次に出せるのは一年後なんだよ?」


吉川 「一年後も出さないよ。なんで毎年お正月に夢でちんちん出すこと楽しみにしてるんだ」


藤村 「さては照れてる?」


吉川 「それもあるよ。恥ずかしげなく出すものじゃないだろ」


藤村 「大丈夫。ちんちんがでても全然普通だから。鷹とかなすびだってなかなか出ないよ?」


吉川 「運の無さを恥じてるわけじゃないんだよ」


藤村 「俺だって何度か出したけど全部ちんちんだったし」


吉川 「何度か出してるんだ。人の夢で。出すなよ!」


藤村 「いくら自分の夢だからって登場人物の自由まで制御しようっていうのは傲慢だぞ」


吉川 「ちんちん出させないのはそれほど傲慢じゃないだろ!」


藤村 「この暴君め!」


吉川 「痛ぇな! なにすんだよ!? ……え?」



暗転

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