初詣

藤村 「行こうか、初詣」


吉川 「え? 昨日行ったんじゃ?」


藤村 「何度行ってもいいものだろ?」


吉川 「その年の最初の参拝を初詣っていうんじゃないの? 昨日済ませたからもう初じゃないだろ」


藤村 「違うぞ? 期間中は何回行っても初詣だ。期間も三ヶ日という説もあれば一月いっぱいという説もある。どれだけ行ってもいいんだから初詣題だよ。行けば行くほどお得だよ」


吉川 「飲み放題みたいな感じで言ってる? 初詣題って放題は聞いたことないんだけど」


藤村 「行けば行くほど神様の覚えもいいわけだ」


吉川 「でも寒いし」


藤村 「寒いことなんて去年からわかってたことだろ? なに言ってんだよ。俺なんか初詣に合わせて新しいコート買っちゃったもん。見てこれ。初コーデ」


吉川 「初コーデっていうコーディネートがあるの? 初詣は初コーデでって? ファッション誌にそんなダジャレの特集あったらえらいダサい雑誌だとガッカリするけど?」


藤村 「いいのか? 俺ばっかり詣でちゃて」


吉川 「別に争うことじゃないし」


藤村 「課金すればおみくじも引けるんだぞ? 欲しいのが出るまで全ブッパよ」


吉川 「ガチャみたいに言わないでくれる? 普通のおみくじは大体課金だよ。あと何回も引くものでもないからね」


藤村 「大吉の時はもう棒が出てくる時の演出からして違うみたい。事務の人がちょっと笑顔だから」


吉川 「演出はないだろ。なんだよ、その小学生が言う青い注射は痛くないらしいぞみたいな噂話」


藤村 「時間が許せば全通したいんだけどな」


吉川 「全通? コンサートとかすべての地方の公演に通うやつ? それはもうお遍路さんじゃない」


藤村 「だから早く行こうぜ」


吉川 「面倒くさいなぁ。寒いし。途中でなにか温かい飲み物買っていい?」


藤村 「あー、それは気をつけた方がいい」


吉川 「なんで? 神様は温かい飲み物嫌うの?」


藤村 「いや、寒いじゃん。汗をかかないからどうしてもおしっこが近くなるんだよ。でも初詣の時のトイレ事情っていうのはもう最悪だから」


吉川 「あー、そうなのか。確かにトイレのこと考えてなかった」


藤村 「押し合い圧し合いだから」


吉川 「そんな状態じゃ何も出来ないだろ」


藤村 「でも新年早々諍いは避けたいからな。お先にどうぞ、いえいえそちらこそ、でしたらご一緒に、あそうですか? みたいな譲り合いの精神でやらないと」


吉川 「ご一緒に!? トイレを? どういう体勢になってるの? ご一緒は出来ないものでしょ」


藤村 「気持ち的にだよ。ちなみに参拝中にトイレを我慢していて初めてもう出そうってなるのを初もう出って言うらしい」


吉川 「絶対言わないだろ。神様にも謝れ。なんか話してたらしたくなってきたな。ちょっとコンビニ行って借りよう」


藤村 「なんで家でしてこなかったんだよ」


吉川 「俺だって新年早々小学生みたいな叱られ方して悲しいよ」


藤村 「もうさっと参拝して帰ってくりゃいいから」


吉川 「えー、人多いじゃん。そんなすぐできる?」


藤村 「いけるいける。俺慣れてるから」


吉川 「お前の初詣に慣れてるという奇妙なスキルのおかげで助かるよ」


藤村 「うわぁ、なんか混んでるな」


吉川 「まずいよちょっと。そんなにもう我慢出来ないよ」


藤村 「初もう出?」


吉川 「初もう出だよ!」


藤村 「でも大丈夫。神様に『漏らしませんように』って祈れば。俺も毎回そうだから」


吉川 「不毛過ぎる!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る