ドラマ

藤村 「いざ、鎌倉! なんつってな」


吉川 「急になに?」


藤村 「いざ、鎌倉! 知らない?」


吉川 「あぁ、大河ドラマ?」


藤村 「流石に知ってるか。いやぁ、大河だったね。まさに」


吉川 「見てない」


藤村 「まじかよ! 見てないの? 非国民!」


吉川 「そこまで言われる筋合いはないよ。別にいいだろ見てなくても」


藤村 「あのな、よくそんなこと言えるな。俺の周りなんてみんな見てるんだぞ? 口を開けば鎌倉だの藤沢だの茅ヶ崎だの言ってるんだから」


吉川 「そうなの? どんな話なの?」


藤村 「は? なにが?」


吉川 「大河ドラマ。なんだっけ? 鎌倉の?」


藤村 「そんな事も知らないの? そんなんじゃ話題についていけないよ?」


吉川 「だから教えてくれよ」


藤村 「いや、ネタバレになるから」


吉川 「言うても歴史モノでしょ? ネタバレもなにもないじゃん。歴史であるんだから」


藤村 「オリジナル要素もあるから。たぶん」


吉川 「お前、本当に見てるの?」


藤村 「なんでそういうこと言うの? 人を疑うなんて年末に一番しちゃいけないことだよ?」


吉川 「年末は関係ないだろ。見てるんなら大体の流れとか教えてくれよ」


藤村 「それを知ってどうするつもり? まさか見た感を醸し出して話題にそれとなくついていくというテクを使おうとしてる?」


吉川 「そんなテク使わないよ。興味を持つかもしれないと思って。面白そうなら見るよ」


藤村 「ダメだ。見るな!」


吉川 「なんでだよ!」


藤村 「一緒に見た感だけ醸し出すテクを磨こう」


吉川 「やっぱり見てないんじゃねえか」


藤村 「厳密に言えば見てないことはない。チラッとは見てる。ただ長いよ。45分くらいのが50回あるんだよ? カップラーメンなら750個できちゃう」


吉川 「カップラーメンを連続で作らなくてもいいだろ。何の業者だよ」


藤村 「だけど見てるやつになりたい。そんな時間は使いたくないけど大河ドラマを見終えたという称号だけ欲しい。あと人とは違う角度から作品を語ってセンスのあるやつと思われたい」


吉川 「俗すぎる。別に見てないなら見てないでいいだろ。俺だって見てない」


藤村 「お前と一緒にされたくない!」


吉川 「すごい失礼なことを真正面から言うなぁ」


藤村 「俺はお前と違って見てないけど見た感はでてる男だから。まったく見てないお前とは雲泥の差だよ」


吉川 「いいとこ泥と砂くらいの違いじゃない?」


藤村 「俺はお前と違って俳優が語る撮影裏話みたいなネット記事はちゃんと読んでるから。一番低コストで見た感だせるし」


吉川 「それ楽しいか? ちゃんと見てから裏話読んだほうが楽しめない?」


藤村 「もう楽しいとか楽しくないとかいうステージはだいぶ前に通り過ぎたんだよ。センスのあるやつと思われるためにはあらゆる喜びは捨てた」


吉川 「ストイックにセンスがあるとやつだと思われようとしてるなぁ。全体的にセンスとかあらゆることに対する冒涜だけど」


藤村 「話題の映画だってこれで乗り越えてきた」


吉川 「見ろよ! 映画ならせいぜい2,3時間だろ」


藤村 「そんな時間ないんだよ! 裏話を収集するのに何十時間も使ってるんだから」


吉川 「空っぽなのに入れ物だけ執拗に凝ってるやつだな」


藤村 「だいたいこれはセンスのあるやつが誉めてる作品だなと思ったら、もうスピード勝負だから。なるべく多くの人に『え? まだ見てないの?』って声かけをすることによってセンス値を底上げしていく」


吉川 「恐ろしく不毛な活動。すでに見てる人に会ったらどうするんだ」


藤村 「それはチャンスだから。だいたいそういう人はいい場面とかを語りたがってるから存分に語らせる。『なー、あそこな!』みたいに言ってればいい。そしてそいつが語った見所を今度は俺の意見として採用させてもらう」


吉川 「たちの悪い寄生生物みたいな生き方をしてるな」


藤村 「大変だよ。センスが良いやつとして生きるのは」


吉川 「全然憧れないけど。俺は自分の目で見た方がいいや。別に意味はなくても初日の出とか見に行くし」


藤村 「え? お前、まだ見てないの?」


吉川 「勇み足!」



暗転

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