吉川 「俺たち友達だよな?」


藤村 「何だ急に。今更そんな気恥ずかしいこと言うなよ」


吉川 「そういうことを言える人間がいるってのは幸せなことだと思って」


藤村 「まぁ、そうだな。人生でそう何人も現れる関係ではないな」


吉川 「でも友達っていうかさ。それよりもっと……」


藤村 「え? ひょっとしてそういう目で見てる? エロい感じ?」


吉川 「全然違う。お前と出会ってから一瞬たりともエロいと思ったことはない」


藤村 「脇腹のホクロ見た時も?」


吉川 「それエロスアピールだったの? 全然。腹出てるなぁと思っただけ」


藤村 「そっか。じゃ、なんだよ?」


吉川 「莫逆の友って感じ?」


藤村 「おいおい、どういうことだよ?」


吉川 「え? 俺の思い違いだったか。重かったか、俺の思いは?」


藤村 「莫逆? 全然違うよ」


吉川 「あ、そう……」


藤村 「刎頸の友だろ? 俺たちは」


吉川 「あ、え? じゃ、いいんじゃないの?」


藤村 「なに? お前俺のことを莫逆程度だと思ってたの?」


吉川 「莫逆程度っていう程度はあるの? 結構俺の中じゃ最上級なんだけど」


藤村 「莫逆の友くらいならお前の他にも60人はいるよ」


吉川 「そんなに? いすぎない? 俺のスマホの連絡帳、全部合わせても60人いないよ?」


藤村 「お前が俺のこと莫逆の友だと思ってるなんてな。俺ばっかり刎頸の友だと思っててバカみたい。とんだピエロだったわ」


吉川 「別にいいんじゃない? 刎頸でも莫逆でも」


藤村 「全然違うだろ、莫逆とは心に逆らうことく気持ちがピッタリと合う程度の友達ってことだろ!」


吉川 「十分じゃない? 俺は他にそんな友達いないよ?」


藤村 「刎頸の友はたとえクビねられたとしても後悔しないくらいの関係だぞ? 圧倒的に刎頸の方が友情度高いだろ」


吉川 「そ、そうかな? なんか怖いよ。なんでそんな状況になるの? 俺はお前の首を刎ねたくないし、お前に首を刎ねられたくもないよ」


藤村 「嘘? 刎ねさせてくれないの?」


吉川 「え、嫌だよ。なんで首を刎ねられなきゃいけないのよ」


藤村 「そうだよな。所詮お前は俺のことを莫逆くらいにしか思ってないわけだから」


吉川 「それって例えでしょ? 友情の深まりをそのくらいのレベルと誇張して例えただけだよ」


藤村 「そんな急に早口になるくらい嫌か。首刎ねられるの」


吉川 「当たり前だけど? いいって言うと思ってた?」


藤村 「お前なら喜んで首を差し出すと思ってたよ。なんせ刎頸の友だから」


吉川 「友情はあるよ。莫逆だって相当なものだよ? でも首は嫌だよ」


藤村 「首を刎ねられないとなると、お前との友情も考えなきゃならないな」


吉川 「どうして? 首刎ね目的だったの?」


藤村 「それ目的っていうか、最終的にはそういうゴールを迎えるかなと思ってて付き合ってたんだけど」


吉川 「それってゴール? なんか結婚みたいに言ってくれてるけど著しく違うじゃない?」


藤村 「そんなことないよ! 二人だけの神聖な関係だろ。俺にとっては他の誰でもないお前だけだったんだから」


吉川 「俺の方も友情という点ではお前だけだったんだけど、首っていう観点で考えたことなかったから。そういうのアリの関係って思ってなかったもん」


藤村 「あー、遊びだったんだ。首は刎ねさせないけど、友情だけっていう気楽な関係。友達として美味しいところは味わいつつも責任は取らないっていう」


吉川 「責任なの? 首刎ねが? 責任重すぎない? 王族?」


藤村 「結局最後に首は刎ねさせないでこっちの気持ちを弄んで。よくそれで友情とか言えるな」


吉川 「いや、お前の方こそそうだろうが! 首を刎ねれるから友達とか。結局身体が目的なんじゃないか!」


藤村 「違うよ!」


吉川 「何が違うんだよ!」


藤村 「頭の方だよ!」


吉川 「首刎ね前提じゃねーか!」



暗転

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