スピーチ

藤村 「スピーチ用の原稿を書いてるんだけど、行き詰まっちゃってさ。なんかアドバイスくれない?」


吉川 「スピーチって結婚用?」


藤村 「そう。あいつの。頼まれちゃって」


吉川 「お前がするのか。いいけど。どんな感じなの?」


藤村 「よくさ、『結婚生活とは○○のようなものです』って言ってから、その要素の部分で伏線を回収してくのあるじゃん? あれをやりたいんだよ」


吉川 「いいじゃん。もうほぼ出来かけてると言ってもいいくらいだよ」


藤村 「最初『結婚とはふりかけのようなものです』がいいかなーと思って」


吉川 「ふりかけ。なんでふりかけ?」


藤村 「ほら、一見結婚というワードとは遠い言葉の方が、伏線が回収された時に『おっ?』っと思うじゃない? その効果を狙ってね」


吉川 「あー、いいんじゃない? ふりかけ。あんまり聞いたことないし」


藤村 「いい? 結婚とはふりかけのようなものです。おかかもあればのりたまもある。そして時には梅じそということもありえます。しかし、どんな時でもホッカホカの白ごはんにかければ美味しい。コウジ、ヨシコさん、結婚おめでとう!」


吉川 「なに? どういうこと? 回収は?」


藤村 「なんか伏線の回収が上手くできなくて」


吉川 「だよな? 全然できてない。ただふりかけのことを話した人だもん。結婚はなんでふりかけなのか謎だけ残して去っていったよ。せめてなにか一つくらい掛かってるかと思ったけど、なにもなかったな。なんだよ、のりたまって」


藤村 「やっぱりちょっとふりかけってのが難しかったかな」


吉川 「そこまで見通しがないんだったらふりかけをチョイスするなよ。ある程度の勝算のあるやつを選んでくれたまえよ」


藤村 「じゃ、こういうのは? 結婚とは福袋のようなものです」


吉川 「あ、ちょっと良さげ。なんかハッピーっぽさもありながら、ちょっと気の利いたことも言えそう」


藤村 「結婚とは福袋のようなものです。3000円コース、5000円コース、10000円コースとがあり、どの袋もお値段以上の物が入っております。また数量限定となっておりますので売り切れの際はご容赦ください。コウジ、ヨシコさん、結婚おめでとう!」


吉川 「福袋メイン!? 福袋のことしか伝えてないよ! 結婚式のスピーチだろ? 結婚とは、の部分がこれほど蔑ろにされることある?」


藤村 「やっぱり福袋ってのが難しいのかな」


吉川 「いや、福袋の発想自体は悪くなかったよ? だけどもう福袋のことで頭が一杯になっちゃってた。一度も結婚のことを振り返らなかっただろ」


藤村 「ほら、福袋って結婚よりも強いワードだから。その後に話すことが全部福袋に乗っ取られちゃって」


吉川 「普通はそんなことないけどな」


藤村 「じゃ、もうこういうのはどうだろ? 結婚というのはスピーチのようなものです」


吉川 「どういうこと? 開き直ったの?」


藤村 「結婚というのはスピーチのようなものです。結婚のスピーチをしようとする時、どうしても伏線を回収しようとか、上手いこと言ってやろうとかいう気持ちが湧いてきてしまいます。しかし、本当に大事なのはスピーチで周りから喝采を浴びることではありません。相手にお祝いの気持ちを伝える、その気持さえきちんと持っていれば、たとえスピーチでスベろうと噛もうと問題ではありません」


吉川 「何言ってるかわからないけど、気持ちは伝わってくるな」


藤村 「どんな時も、二人で力を合わせてスピーチしてください。ふりかけ、福袋さん、結婚おめでとう!」


吉川 「スピーチの役、断ろ?」



暗転

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