おしくら
吉川 「寒いなぁ……」
押競 「押されて泣くな、少年!」
吉川 「少年じゃないけど。あなたは?」
押競 「冷えた心も温める、愛と圧力の使者、おしくらマンだ!」
吉川 「おし?」
押競 「おしくらマン。あのみんなの大好き、最高のヒーローでお馴染みのおしくらマン」
吉川 「知らないです」
押競 「大丈夫。もちろん知らない人間もいるだろう。この現代で地動説を知らない人間だっているくらいだ。愛と圧力の使者、おしくらマンはそんなことで助ける相手を区別しない」
吉川 「自分の知名度を地動説と比肩するか。これ、なんかの撮影? You Tube?」
押競 「違う。ただ困ってる人を見たら助けずにはいられない。そんな最高のヒーローが、愛と圧力の使者、おしくらマン。もう覚えた?」
吉川 「自称するだけあって圧が煩わしい!」
押競 「寒いんだろ、少年。寒さは人の心を弱くする。だいたいの悪事は寒いから起きてる」
吉川 「そんなことないだろ。暑い国でも犯罪は起きてるよ」
押競 「暑いか寒いかどっちかでだいたい起きてる」
吉川 「すごい雑だな。ちょうどいい気候のところでもあるだろ」
押競 「暑いか寒いかその他のどれかで起きてる。それ以外はない!」
吉川 「その他を入れたらもう何も言ってないのと一緒だろ。その他に全部含まれるじゃない」
押競 「ロシアを見てみろ。寒いからあんなんなっちゃってるんだぞ」
吉川 「雑に国際情勢を語るなぁ。寒さだけが原因じゃないだろ」
押競 「寒さとその他だ」
吉川 「その他をやめろよ。その他でなにか言った気になるの図々しすぎるぞ」
押競 「そんなこんなで、寒いというのは人の心にとってよくない。そんな人の心を暖めるために私が現れた」
吉川 「えー、でも押しくら饅頭するの? 恥ずかしいな」
押競 「ストーップ! ソーシャルディスタンス!」
吉川 「まさかの発言がおしくらマンから出たな」
押競 「今そういうの大変だから。ネットで炎上するから。アップデートしなきゃ」
吉川 「アップデートしてきたんだ。明らかに押しくら饅頭をモチーフにしたヒーローなのに」
押競 「いいか、少年。こんな話がある。ある貧しい家族が美容院に行ったが一人分しかお金がない。それを見かねたカリスマ美容師が母親と二人の子供に重ためのサイドを刈り込み、頭頂部のボリュームを出し、ラフなハネ感を出して、パーマとカラーリングをしてあげたんだ。たった一人分の料金で」
吉川 「……で?」
押競 「心温まる話だろ?」
吉川 「温まらないよ! なんだよ、その一杯のかけそばの何も良いところを活かしてないパクリは。金ないのにラフなハネ感を出したがるなよ。もっと優先するものあるだろ」
押競 「そうやってムキになってつっこむことでちょっと暖まったか?」
吉川 「イラつくやり口だな。むしろ心は冷えてきたよ。なんだよ、心温まる話って。押しくら饅頭を封じられてたどり着いたのがこれなの?」
押競 「あと放火」
吉川 「あと、じゃないよ! なんだよその最悪の二択は。曲がりなりにもヒーロー名乗るやつが放火にたどり着くなよ」
押競 「あれは結局消火活動で水をかけられるからかえって寒くなる。はっきり言っていいアイデアとはいえなかったな」
吉川 「その結論の前にいいアイデアじゃないことに気づけるだろ。なんで寒くなってから気づいてるんだ」
押競 「しかたない。昨日開封したほんのり温かい使い捨てカイロをあげよう」
吉川 「もうカイロとしての温か機能は尽きてるのに、体温が移ってなんとなく温かいような気がして捨て時がわからなくなってるゴミじゃねえか! いらねーよ! 押しくら饅頭を奪われたおしくらマンはもう何も残ってないのか」
押競 「頑なな。どうしてもか? どうしてもしたいのか、押しくら饅頭を?」
吉川 「別に押しくら饅頭以外でもいいけど、なんかあなたが見ていて不憫だからそう言ったんだよ」
押競 「そこまで言うなら、実はあるマンションの一室で会員制の押しくら饅頭クラブがあってね。ここでは言えないが政治家や芸能人などもお忍びで来てるらしい。会員の紹介がないとダメなんだが……。この、おしくらマンの名刺を見せれば入れるから」
吉川 「無許可の風俗のシステム!」
暗転
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