年越し

藤村 「実はさ、俺そろそろ年越そうと思って」


吉川 「ん? うん。そうだろうね」


藤村 「あ、知ってた? なんだ」


吉川 「俺もそうだから」


藤村 「あ。お前もなの? なんだよ、言えよー」


吉川 「別に言わなくてもいいでしょ」


藤村 「そんなことないよ。奇遇じゃん! 知らなかったよ。水臭いなぁ」


吉川 「年越しは全員一緒でしょ」


藤村 「全員って誰と?」


吉川 「いや、誰っていうか全員と」


藤村 「誰と誰? 俺の知ってる人でしょ?」


吉川 「知ってる人も知らない人も全員だよ。世界中、まぁ時差があるから日本中か」


藤村 「あー、やっぱり流行ってんだ。日本人てそういうところあるもんね。鬼滅とかも全員見てるし」


吉川 「ブームじゃないよ? 個別に自分の意志でやるようなことじゃないから。年越しって」


藤村 「とにかく、他の人がどうであろうと関係なく、俺は年を越すことを決めたから」


吉川 「お前の決定でなにかが成されるわけじゃないよ? 年越しなんて受動的なものだから」


藤村 「普通の人はそうなんだろ。そうやって何に対しても受け身でさ。自分から踏み出すわけでもないのに、いざ始まると文句ばっかり。それがお前ら愚民だよ。俺は違う。自分の意志で年を越す。この歩みは誰も止められない」


吉川 「別に止めないし、止められないし、今まで毎年そうやって年越ししてきたの?」


藤村 「当たり前だろ? 主体性のないクズども一緒にするなよ。自分の判断で年を越したんだから、たとえそれが間違ってたとしても自分の責任。他人に文句を言ったりしない」


吉川 「間違ってることある? 年を越えたことに関して」


藤村 「ほら、書類に年月日を記述する時に前の年のをウッカリ書いちゃったりして」


吉川 「急にスケールの小さいあるあるネタになったな。いや、それは別に他の人も文句言わないと思うよ。黙って修正するよ」


藤村 「みんな言うじゃん。『年取ると一年が早いわぁ』みたいの。俺は全然そんなことない。一年は一年! 6歳の時と同じスピードで年を取ってる。なぜなら俺は自分の意志で年を越してるから」


吉川 「それは感覚的なものじゃない? 誰だって一緒なのはわかってるよ。でも気持ちとしてない? ここ最近っていうともう5年くらいの単位で考えちゃったり」


藤村 「まったくない。きっちり同じ時間を感じてる。時間は早くなることはないわけだし。お前もさ、凡百の輩のように受け身で年越しをしてるとあっという間にジジイだぞ?」


吉川 「なんかそれは嫌だな。でも俺はどっちかというと自分の力で年を越すよりは時間の流れを止めたいよ」


藤村 「あ、そっちなの? そっちの方が全然簡単だよ」


吉川 「いや、そんな特殊能力ないだろ」


藤村 「別に能力も要らない。ちょっとの覚悟ですぐ出来る。俺は時間を進めたい派だからやらないけど、考え方は一緒だから」


吉川 「本当に出来るの? 時間の流れを止めるってこと?」


藤村 「これさえやればもう年も取ることないし」


吉川 「えー、なにそれ。どうやるの?」


藤村 「やってやるよ。ほら、これでさ……」


吉川 「ちょっと待って。それナイフじゃん。ちょっと! ちょっとぉ! 目が! 目が本気っぽいぞ! ちょっ……」



暗転

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