信じる

藤村 「お前、サンタ来た?」


吉川 「え? どういう意味?」


藤村 「どういう意味か説明がいる? クリスマスって知ってる?」


吉川 「それはわかるよ。俺に? 俺に対してサンタクロースが来たかってこと?」


藤村 「そうだよ。俺とお前しかいないのに、他の人の話題を出してどうするんだ」


吉川 「だって、俺はもう大人だよ?」


藤村 「うん。で、来た?」


吉川 「来ないよ。誰がくれるんだよ。プレゼントを」


藤村 「サンタだよ」


吉川 「え、なに? どういうこと? お前には来たの?」


藤村 「まさか、来るわけないだろ。だって一年通していい子にしてなかったもん」


吉川 「いい子にしてなかったから来なかったの?」


藤村 「そうだよ。14歳くらいからかな、さすがに来なくなったね。まぁほら。やっぱりいろいろとエッチなことも考えちゃうしさ。もう諦めてるよ」


吉川 「諦めてるって、サンタクロース自体は来る可能性あると思ってる?」


藤村 「いやぁ、可能性はどうだろ? 今年はね、10月くらいまではかなりいい子だったと思うんだけど、やっぱり一年通してってなると難しいよね」


吉川 「あー、なるほど。サンタクロースはいるってことね?」


藤村 「いるってどういうこと? 友達の子供なんか来たって喜んでたよ?」


吉川 「あぁ、ごめんごめん。なんか変なこと言いそうになっちゃった。そうか。そうだよね、いるよね」


藤村 「いるって? ここにってこと? お前がってこと?」


吉川 「そのレベルの思いだと思ってなくて。俺はサンタじゃないよ。おじいさんでもないし」


藤村 「おじいさん限定なわけじゃないだろ。そりゃ、アイコンとしてはおじいさんがやってるけど。あんな激務をおじいさんだけがやってるわけないじゃん。実態はもっと若い人も多いと思うけどね」


吉川 「あー、そういう組織的なものだと認識してるの?」


藤村 「お前ひょっとして、太った老人が一人で世界中回ってると信じてるの? おいおい、そんなの幼稚園で卒業しろよ」


吉川 「こっちがそんな風に言われるとは思わなかった」


藤村 「俺たちの言動を一年間監視してプレゼント上げるに相応しいかどうかジャッジしてるわけだから、相当巨大な組織だと思うんだよね。しかもサンタクロースって役職は組織の中でも優秀な人じゃないとなれないと思う。みんな憧れるだろうし。エリートなんだろうな」


吉川 「そこまでリアリティのある想像ができるのに惜しいな。じゃあ毎年結構プレゼントもらうのを目指してはいるわけ?」


藤村 「それなー。やっぱり社会人としてストレスが多くなると、どうしてもいい子で過ごすってのは難しくなってくるよ。多分あれなんだよなー。11月にさ、新人が仕事でやらかして、忙しかったのもあって当たっちゃったんだよね。もうパワハラみたいな感じよ。後で謝ったけど、謝ってもサンタは見逃してくれないよな」


吉川 「サンタのために謝ったの? なんだかんだで、サンタさん良い方向には働きかけてるわけだ」


藤村 「あれがなきゃ今年は貰えたかもしれない。どうだろ、深酒しちゃった日もあったからわからないけど」


吉川 「結構まじで反省してるんだ。偉いな。なんかお前の好感度ちょっと上がったわ」


藤村 「何だよ急に、気持ち悪い。そういうあからさまなお世辞言ってもサンタさんは評価してくれないと思うよ?」


吉川 「まぁまぁ。サンタさんはともかく。なんか飯でも食べる? ウーバーイーツ頼むよ」


藤村 「ブフーッ! ウーバーイツ、信じてるの!? あれって別に料理が勝手に届くわけじゃなく、おじさんが自転車で届けてくるだけなんだよ? おまえ、いい年こいて恥ずかしいぞ、それ」


吉川 「すげえ全部バラしてぇ!」



暗転

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