飲酒検問

藤村 「はい、すみませーん。止まってくださーい」


吉川 「うわぁ、飲酒検問か」


藤村 「すみませんね、お急ぎのところ。ひょっとしてアレですか? 今運転中?」


吉川 「そりゃそうだろ。見りゃわかるわな。違いますって答えると思った?」


藤村 「なるほどなるほど、判断力はバッチリですね」


吉川 「そこで間違うほど判断力がボロボロの人いるの? 泥酔しててもそのくらい大丈夫だろ」


藤村 「すみません、年末なんで多くて。もちろん飲まれてはいませんよね?」


吉川 「飲んでませんよ」


藤村 「口ではなんとでも言えるんですよ。本当のところは?」


吉川 「尋問で聞き出そうとするなよ。あるだろ、フーってやる機械が」


藤村 「こう見えても署では仏の藤さんなんて呼ばれてるんですよ」


吉川 「知らないよ」


藤村 「祖父がフランス人のクォーターだから。まじでワールドカップは残念だった! メッシにやられたよ」


吉川 「仏のってフランスのこと? わかりづらいな。しかもどうでもいいエピソード」


藤村 「ボンソワール? シャンパン飲んでモレシャン?」


吉川 「なんだよ、モレシャンて。ちゃっちゃと終わらせてくれよ。飲んでないんだから」


藤村 「ではこの機械の、先の部分のニオイを嗅いでください」


吉川 「嗅ぐの? 吹くんじゃないの? 嗅ぐって言われたの初めてだよ?」


藤村 「前にやった人の口がメチャクチャ臭かったんで」


吉川 「嗅がせるなよ! なんで犠牲者増やそうとしてるんだよ」


藤村 「自分ひとりこんな目にあったんじゃ悔しくて」


吉川 「道連れにしようとするなよ。気の毒だけどそれは抱えて強く生きてくれよ」


藤村 「じゃ、結構汗かいちゃったこのバイク用グローブを嗅いでください」


吉川 「なんのために!? もうただ臭いの嗅がせることが目的になってない?」


藤村 「なってます」


吉川 「なってます、じゃないよ。きれいな目をして答えるんじゃないよ。飲酒検問でしょ?」


藤村 「でもあなた飲んでなさそうだからサービスとして」


吉川 「サービスなの? せめてものおもてなしを飲酒検問でしようとしないでよ」


藤村 「でも飲酒検問でなにもなく通ったってことになると、年末年始のエピソードトークとして弱いでしょ?」


吉川 「すごい気の使い方するな。別にタレントじゃないんでエピソードを語る場面そんなにないですから」


藤村 「いやいや、年末年始は人と会う機会が多いから。そういえばこの間さ、なんてこの話をしたらもう大盛りあがりですよ。3月上旬くらいまで使えますから」


吉川 「気遣いはありがたいですけど、一応急いでるんで」


藤村 「仏の藤さんがフランス人とのクォーターってのはもうテッパンですから」


吉川 「すごい推してくるな。自己アピールが強い」


藤村 「そういうのも踏まえて、嗅いでみます? グローブ」


吉川 「だから嗅がないって! 踏まえても踏まえなくても嗅がないよ。臭いんだろ!」


藤村 「臭いのはわかってても、どれくらい臭いかどうかは体験しないとわからないじゃないですか? その辺り実際に嗅いでるのと嗅いでないのじゃエピソードとしての真実味に欠けると思うんですよ」


吉川 「話さないよ別に、あなたのことは」


藤村 「え? フランス人とのクォーターなのに?」


吉川 「しつけーな。よっぽど自信持ってるんだな、そのくだりは」


藤村 「わかりました。じゃ、これフーって吹いてください」


吉川 「やっとかよ。フーッ!」


藤村 「うわ、くっさ! 臭っせぇ! さっきの人超えてる! 歴代一位!」


吉川 「失敬だな! アルコールは検出されてないだろ!」


藤村 「はい。通ってください。安全運転で。あと一ついいですか?」


吉川 「なんだよ!?」


藤村 「その口で、私のエピソードは語らないでくれますか?」


吉川 「うるせーわ。仏の藤さん!」



暗転

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