噂をすれば影
藤村 「シーッ! バカ! あんまりそういうこと言うなよ。本当になるぞ」
吉川 「なにが?」
藤村 「今言っただろ」
吉川 「え? クリスマスのこと?」
藤村 「いい加減にしろ! 迂闊にそんな事口にするんじゃない。本当に来たらどうするんだ。恐ろしい」
吉川 「いや、来るでしょ」
藤村 「そりゃ、来るとは言われてるよ。でも東海地震だって俺が子供の頃から来る来るって言われてまだ来てないんだよ。そういうのは言わないほうがいい。たとえ非科学的だと言われても言霊というのはあるんだから」
吉川 「え? クリスマスだよ?」
藤村 「また言った! わざとか? 嫌がらせで言ってるのか?」
吉川 「だって来るだろ」
藤村 「そりゃいつかな。そんな事を言い始めたら、地球だっていつか消滅するし、人類もいつか滅亡する。俺たちだっていつか死ぬ。その日が来ること自体は確定しているけど、わざわざそれを認識して生きないだろ? みんな来ることがわかっていながら見ないふりをして生きてるんだよ。それこそが人生じゃないか?」
吉川 「その、地球最後の日とクリスマスを同列に考えてるの?」
藤村 「スケールの大きさってだけで、いつか来るという意味じゃ一緒だろ」
吉川 「違うよ? クリスマスは決まった日だから」
藤村 「地球最後の日だって決まってるだろ。俺たちが知らないだけで。運命っていうのはそう言うものだよ」
吉川 「クリスマスは運命で決まってるものじゃないもの。予定として人間が勝手に決めたものだから」
藤村 「そう思いたいのは自由だけどな。ただ科学的根拠に基づいたものじゃなく、妄想の域を出ない単なる陰謀論だろ。あんまり周りの言うことに惑わされずにきちんと調べたほうが良いぞ。あと付き合う人間も考えた方がいい」
吉川 「違うよ! 陰謀論でクリスマスが来るぞー! って煽ってるわけじゃないよ。そんなハッピーな陰謀論ある? 俺たちに秘密で政府がクリスマスパーティー準備してるとか。そこに怖気づく意味がわからない」
藤村 「一度そういう考えに取り憑かれたら、なかなかニュートラルな思考には戻れないんだな。たとえお前がクリスマスが迫ってると不安を掻き立てるようなことを言っても俺には通用しないから」
吉川 「不安なの? そこまでクリスマスが? クリスマスの何にそこまで怯えてるんだ」
藤村 「可哀想に。本気でクリスマスが家族や恋人たちと過ごす、なにやったかもよくわからない昔の人の誕生日だと思いこんでるのか?」
吉川 「よくない流れ! そういう考えこそ陰謀論なんじゃないの? 何が起こるっていうの?」
藤村 「いや、言うまい。ただ幸せな日が訪れると信じている人に話すにはあまりにも酷な内容だ」
吉川 「言えよ。どうせまたネットで聞きかじった知識だろ?」
藤村 「そんなんじゃない。俺はかつて経験し、このような悲劇は二度と繰り返してはいけないと心に誓ったんだ」
吉川 「なにがあったんだ? 心配になるな」
藤村 「バイトが激忙しくなる!」
吉川 「知らねーよ。その程度かよ」
藤村 「しかも終わったら月末の棚卸しもある」
吉川 「仕事としては忙しいのはいいことだろ。バイトの立場だと辛いだろうけど」
藤村 「だから、クリスマスなんてものは二度と迎えてはならないんだ!」
吉川 「ちっちゃい! 理由が小っちゃい! 来るんだよ。12月25日に必ず来るんだよ。クリスマスは」
藤村 「来てしまうのか? 人類がどれほど足掻いたところで?」
吉川 「足掻いてる人類はほぼいないと思うけどな」
藤村 「そうか。受け入れる覚悟を決めるしかないな。それでそのあとに来るハルマゲドンは何日なの?」
吉川 「それは同列じゃないんだよ」
暗転
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