ぺてんし

見ると

藤村　「実は言ってなかったけど、俺はある秘めた能力があるんだ」

吉川　「またどうでもいいやつだろ？　あっち向いてホイで２連敗したことないとか」

藤村　「それはこの間したからもう能力が消えた」

吉川　「それまで能力があったみたいな言い方するなよ。元からないだろ」

藤村　「いや、この間するまでは一度も２連敗したことがなかった」

吉川　「普通そんなにあっち向いてホイの連戦はしないからな？　２連敗したことない人類はかなり多いと思うぞ」

藤村　「そう言う話じゃないんだよ。今度は自分では気づかなかったけど他人に言われて気付かされたことなんだから」

吉川　「なんだよ、その能力って」

藤村　「スポーツの勝敗を自在に操れる」

吉川　「八百長か？」

藤村　「違う。そういうのじゃない。俺が能動的に何かをするわけじゃない。言ってみればパッシブスキルであってすでに俺に備わってる」

吉川　「どういうこと？」

藤村　「負けるんだよ。俺が観戦して応援すると」

吉川　「……うん」

藤村　「言われたからね。お前が応援すると負けるから見るな！　って」

吉川　「それは、能力というか、結構よく見るあるあるだな」

藤村　「いや、これが本当にすごい精度なんだよ。絶対に負ける。俺もビビった」

吉川　「いるよ、そういう人」

藤村　「もう、そういう人のレベルじゃない。現時点で１００％だから。現に俺のせいでこの間も負けたし」

吉川　「お前のせいじゃないよ。選手たちも頑張ったけど相手チームも頑張ったし、力とか運とか色々あったんだよ」

藤村　「俺が応援したせいで……」

吉川　「だから責任感じなくていいよ。偶然だから」

藤村　「いや、俺はこの能力を使ってこれから嫌いなチームを応援することにする」

吉川　「関係ないって」

藤村　「俺が相手チームを応援すれば勝てるんだよ？　売国奴と罵られようとも、俺は相手チームを応援し続ける」

吉川　「ものすごい覚悟決めてるな」

藤村　「そしてこれを利用すれば令和のビフ・タネンになれる！」

吉川　「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2の？　結局私利私欲だな」

藤村　「そのくらいの旨味は味わっていいだろ！　嫌いなチームを応援し続けなきゃいけないんだぞ？」

吉川　「だから偶然だって」

藤村　「俺のこの力を使えば、選手は無駄な批判に晒されることもなく、過度なトレーニングで身体を壊すこともない。鼻糞ほじってても勝てる」

吉川　「それはそれで嫌だろ。スポーツの醍醐味を台無しにしてる」

藤村　「勝利のために俺は犠牲になるんだよ！」

吉川　「そもそも、そんな無心に相手チームを応援できるものか？　勝利のためにって考えてる時点で内心応援しちゃってるじゃん。その応援心を神様に見透かされるんじゃないの？」

藤村　「は？　神様？　何言ってるんだ？　勝敗は神様が決めてるわけじゃないだろ」

吉川　「お前でもねぇわ！　わかってるよ。選手たちが頑張ってるんだよ！　百歩譲って不思議な力があったとしたらって譲歩したんだよ」

藤村　「俺はもう応援すると決めたら濁りのない気持ちで相手チームを応援するから」

吉川　「いや、無理だろ。だって勝つためなんだから」

藤村　「日本なんてクソ食らえだから。ボロ負けして欲しいもん」

吉川　「それはそれで言うなよ。もうそうなったら敵だよ。仲良くできる気がしない。そうじゃなくて、例え結果が望むようなものじゃなかったとしても気持ちを合わせて俺たちが応援することこそ大事なんじゃないか？」

藤村　「いいや！　勝利こそ全てだ。そして真実は一部のものだけが知っていればいい」

吉川　「尊い犠牲みたいに言いやがって。なんだよ、それ。一部のものって俺も？」

藤村　「そうだよ。すべてが終わった時に喜ぶ民たちに伝えてくれ。歴史の影で戦った英雄がいたことを」

吉川　「もう英雄気取りなんだ。そんな大役俺にできるかなぁ。自信ないなぁ」

藤村　「お前ならできる！　応援してるぞ」

吉川　「それ、失敗するってことだろ」

暗転