発祥の地
藤村 「こちらがエモい発祥の地です」
吉川 「なんの発祥なんですか?」
藤村 「だからエモいです」
吉川 「エモいかどうかは置いておいて、そもそもなんの発祥の地なんですか?」
藤村 「エモいです」
吉川 「話が一歩も進まないな。あなたの感情は聞いてないんだよ」
藤村 「言いがかりはやめてください。これほど丁寧に説明してるのに」
吉川 「説明してないでしょ。エモいだけで」
藤村 「だからエモい発祥の地なんです。世界で一番最初にエモかった」
吉川 「え? 『エモい』の発祥?」
藤村 「最初からそう言ってるんですけど」
吉川 「あー、すみません。まさかエモいに発祥の地があると思わなくて。エモいって誰が最初に言い出したんですか?」
藤村 「文献によりますと、榎本武揚らしいです」
吉川 「明治維新の? そんな昔から言ってたの?」
藤村 「ただ戦後の混乱でだんだんエモさが散逸していってしまいまして」
吉川 「エモさが? 確かに戦後にエモくなってる余裕もなかったのかな」
藤村 「それを復興させたのが江本孟紀だと言われてます」
吉川 「エモやんが? プロ野球を10倍楽しく見る方法の?」
藤村 「エモい中興の祖と言われてます」
吉川 「もっと若い子の文化だと思ってた」
藤村 「それがJKたちの間で使われるようになりました。JKはプロ野球好きなんで」
吉川 「好きなの? 初めて聞いたけど」
藤村 「巨人、プチプラ、パンケーキが好きなのがJKなので」
吉川 「巨人、大鵬、卵焼きに引っ張られすぎてない? 戦後まもなくのJKなの?」
藤村 「この場所がエモくなるまで世界のどこもエモくなかったんですよ」
吉川 「あっただろ、別に。エモい場所は」
藤村 「いえ、どこもエモくありませんでした。もうゴミ溜みたいな場所ばっかりで」
吉川 「そんなことねぇだろ。ここを誇るために他の場所を貶すなよ」
藤村 「でも見てください、この光景」
吉川 「確かに悪くはないですけど、ただそれほどかな? あくまで発祥の地であって世界一エモい場所ってわけじゃないですよね?」
藤村 「そういう理屈でなんか言おうとするのが一番エモいに対する反逆なんですよ。あくまで心で受け止めないと」
吉川 「そんな、私がどう思おうと指図される覚えはないですよ」
藤村 「あなたがやってることは、わざわざ世界一高いビルを見に行って『こんなに高くする必要あるのかね』とイチャモンをつけるようなことですよ。ここではエモさに身を委ねることこそ正しいんです」
吉川 「そもそもエモい発祥の地だと思って訪ねてきてないもの。たまたま言われただけで」
藤村 「その発言がキモい」
吉川 「そうやって雑な一言で表現する語彙の少なさを顧みたほうがいいと思うよ」
藤村 「ヒーッ! エモいとキモいのダブルで言ってみれば感情のダブルチーズバーガーや!」
吉川 「なんだよ、ダブルチーズバーガーって。意表を突く語彙ではあるけど全然上手くない」
藤村 「そういうのをダブいって言うんだよ。知らないのか?」
吉川 「ダブい? 聞いたことない」
藤村 「今発祥した。ここが発祥の地」
吉川 「どうせそんなことかと思ったよ。エモい発祥の地だって疑わしいな」
藤村 「お前みたいなやつにはどの発祥の地も教えてやらないからな!」
吉川 「いいよ、別に。もとから望んでないよ」
藤村 「次はオッパい発祥の地を教えてやろうと思ったのに」
吉川 「あ、すみませんでした。数々の失礼をお詫びします」
暗転
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